その手が離せなくて
「なんかさ。面白いよな。巡り合わせって」
雨が傘を叩く音だけが響いていた世界に、一ノ瀬さんの声が落ちる。
導かれる様に彼の方を向くと、前を向いていた視線が私を捉えた。
「だって、もう二度と会う事はないと思ってた。違う?」
そう言った彼の言葉に、微かにチクリと胸が痛んだ。
――・・・・・・そっか。
一ノ瀬さんの中では、私はあの日限りの付き合いだったんだ。
あんなに会いたいと願っていたのは自分だけだと知って、なんだか泣きたくなった。
ただ、無性に悲しくなった。
「・・・・・・そうですね」
作り笑顔を微かに浮かべて、小さく頷く。
人通りのない路地を2人並びながら歩いているのに、寂しさが胸を覆った。
それでも――。
「でも、また会えてよかった」
「え?」
「今日会えて、そう思ったよ」
思いもよらなかった言葉に、伏せていた瞳を一気に持ち上げる。
すると、歩みを止めた彼は優しく微笑んで私を見つめていた。