その手が離せなくて
「お、一ノ瀬さん」


ニッコリと瞳を垂らした彼を見て、隣にいた先輩が手を上げた。

なんでも、以前一緒に仕事をしたらしく、こうやって打合せに足を運ぶ度に、一ノ瀬さんは声をかけてくれるみたいだ。


「こんにちは」


ニッコリと笑顔で彼に微笑みかける。

すると、優しく瞳を細めて微笑み返してくれた。

その笑顔に、自分が特別だと錯覚しそうになる。


「望月さん、今日も元気ですね」

「そうなんだよ。こいつ打合せになる度に子供みたいにはしゃぐんだ。よほど会いたい人でもいるんだな?」

「ちょ、止めてくださいよっ」


突然私をいじりだした先輩の言葉に冷や汗がでる。

それじゃぁ、私がまるで一ノ瀬さんに会うのが楽しみで仕方ないみたいじゃない!!


いや、事実そうなんだけど!!

そんな事、一ノ瀬さんに知られたくない女心を察してよ!!
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