その手が離せなくて





「すいません、ここで失礼します」


すっかり真っ暗になった空。

冬のどこか冷たい風が頬を滑っていって、思わず身震いした。

心の中は、ウキウキした気持ちで火照っていたけれど。


「じゃぁ、明日の午後までには資料を纏めておいてくれ」

「分かりました」

「それじゃ。お疲れ様」

「お疲れ様でした!」


資料を小脇に抱えながら、片手を上げた先輩にお辞儀をする。

そして、雑踏の中に過ぎ去っていくその背中を見送ってから、方向転換をして足を急いで動かした。

はやる気持ちを押さえて、いつもの場所へ向かう。


見上げる程のオフィスビル群の端。

淡いライトがポツリポツリと灯る、小さな公園。

その一角にあるベンチに、見覚えのある姿が見えた。



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