その手が離せなくて
◇
「すいません、ここで失礼します」
すっかり真っ暗になった空。
冬のどこか冷たい風が頬を滑っていって、思わず身震いした。
心の中は、ウキウキした気持ちで火照っていたけれど。
「じゃぁ、明日の午後までには資料を纏めておいてくれ」
「分かりました」
「それじゃ。お疲れ様」
「お疲れ様でした!」
資料を小脇に抱えながら、片手を上げた先輩にお辞儀をする。
そして、雑踏の中に過ぎ去っていくその背中を見送ってから、方向転換をして足を急いで動かした。
はやる気持ちを押さえて、いつもの場所へ向かう。
見上げる程のオフィスビル群の端。
淡いライトがポツリポツリと灯る、小さな公園。
その一角にあるベンチに、見覚えのある姿が見えた。