その手が離せなくて
「晶にこの前ドタキャンされたから、そのお返し」

「あ、例の記念日の事件?」

「そ。あ~あ、なんか思い出したら腹立ってきた」


大きな溜息をはいて天井を見上げた私を見て、萌も同じ様に大きく息を吐き出した。

何かと思って、ゆっくりと視線を元に戻すと、目の前には膨れっ面の萌がいた。


「晶はね~もうちょっと柚葉を大事にすべきだと思うな」

「大事にされてるよ」

「例えば?」

「ん~・・・・・・」

「ほら。すぐに出てこない時点でダメなんだよ」


少し考える素振りを見せた私を見て、萌が薄ら目で紅茶をすすりだした。

弁解しようと口を開きかけたけど、その前に萌が再び携帯を私の前に突きつけてきて思わず言葉を飲みこんだ。


「明日夜7時に、このホテルのロビー集合ね」

「へ~夜にやるんだ」

「夜景を見ながらっていうヤツみたい」


ニタニタと嬉しそうに笑う萌を見て、なんだか羨ましく感じた。

楽しそうだなって思って。
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