その手が離せなくて
◇
「萌! お待たせっ」
綺麗に磨き上げられた大理石を蹴って、ソファに座っていた萌の元に駆け寄る。
そんな私の姿に気づいて、萌はニッコリと笑って手をあげた。
「ゴメン! 遅れたっ」
「いいよ。仕事だったんでしょ? お疲れ様」
「そ~。もう休日に電話するの本当止めてほしい」
基本カレンダー通りの休みだけど、たまにこうやって呼び出しの電話がある。
業者からだったり、取引先だったり。
その度に現場まで向かう。
でも、仕事は嫌いじゃない。
やりがいも感じている。
変わらない日々に、少しの刺激を与えてくれる。
「間に合って良かった。ほら、もうすぐ始まるみたいだよ! いこいこっ!」
今日の合コンだって、そう。
変わらない日々に、こうやってスパイスを与える。
人生に飽きない為の、スパイスを――。