その手が離せなくて
『――結婚、してる』
今でも耳に残る、彼の声。
微かにその瞳を細めて、そう言った、その姿。
ガラガラと何かが崩れてしまった。
募った想いも。
伝えたかった言葉も。
思い描いていた日々も。
なにもかも――。
「これって失恋に入るのかな・・・・・・」
ははっと自嘲気に笑って、俯く。
ハラハラと両サイドの髪が顔を覆って、ありがたい事に表情を隠してくれた。
噛みしめた唇から微かに血の味がする。
気を抜いたら、今にも零れてしまいそうな涙をグッと押し込める。
失恋の悲しさなのか。
騙された事への怒りなのか、分からない。
ただただ、辛かった。
心の中が、真っ白になるくらい。