その手が離せなくて
『もう、会わない』
自分で言った言葉がグルグルと頭の中を巡る。
そう言ってしまった自分に、少なからず後悔しながら。
だけど、こうする事しかできない。
だって、彼は誰かのものなんだから――。
「望月」
訳の分からない感情にのまれてしまいそうになった時、再び声がかかった。
勢いよく顔を上げて、何でもないといった様に首を傾げる。
すると、資料に目を通しながら、こちらに歩み寄ってくる上司がいた。
「どうしました?」
「あぁ、お前だったよな? このプロジェクトチームに配属されてるの」
そう言って、今程上司が目を通していた資料を渡される。
それを受け取って視線を落とすと、見覚えのある会社の名前が記されていた。
その瞬間、ドクンと一度跳ねる心臓。
だって、そこに記されていたのは。
紛れもなく、彼の会社――。