その手が離せなくて

「そうですが」


動揺した事を悟られない様に、淡々と言葉を落とす。

心の中は、一気にグルグルと嵐の様に取り乱し初めていたけど。

そんな私をチラリと見てから、上司は驚く事を口にした。


「来月、その会社主催で温泉旅行があるらしい」

「はいっ!?」


思いもよらなかった言葉に、素っ頓狂な声が出た。

あまりにも大きな声だった事に驚いたけど、かまっていられない。


「お、温泉って、どういう事ですかっ!?」

「いや、俺も今資料貰ったばかりだから詳しくは知らないが」

「知らないって・・・・・・」

「ただ、取引先との親睦を深める為って記されているから、そういう事だろ」


卒倒しそうな私とは正反対に、あまり興味のなさそうな声でそう言う上司。

ボリボリと頭を掻きながら、どこか面倒くさそうに眉間に皺を寄せた。


< 93 / 366 >

この作品をシェア

pagetop