その手が離せなくて
「望月のみの出席だが、いい機会だ。顔を売ってこい」
「ちょ、でもっ」
「つべこべ言うな。じゃ、よろしくな」
一瞬の私の反抗すら聞いてもらえず、スタスタとまるで逃げる様に上司は自分のデスクへ戻っていった。
あまりに突然な申し入れに、呆けて固まってしまう。
温泉って・・・・・・。
なんで取引先の企画旅行に一人で参加しなきゃいけないのよ。
あまりにもアウェイでしょうがっ!!
強引に押し付けられた資料を睨み付けながら、聞こえない様に悪態を吐く。
思わずグシャグシャにしてゴミ箱に捨てたい所だけど、耐えて深い溜息を吐いた。
――・・・・・・まさか、来ないよね?
少し冷静になった頭で考える。
浮かぶのは、彼の顔。
いつも私に向けられていた、あの笑顔。
それでも心に浮かんだ瞬間、辛さが一気に押し寄せてきて一度ギュッと強く瞳を閉じた。