その手が離せなくて

会いたい。

会いたくない。


相反する二つの気持ちが交差して、頭の中がグシャグシャになる。

会いたい、なんて思っちゃいけないのに。

もう、関わっちゃいけないのに。

忘れるって決めたのに。

でも――。


「仕事、だから仕方ないよね・・・・・・」


鞄の中からスケジュール帳を出して、温泉旅行の日に〇を付ける。

口元が微かに緩むのを感じながら、書き込んだその日をじっと見つめた。







「望月柚葉様ですね」


旅館のフロントの方が名乗った私の名前を繰り返す。

はい。と返事をすると、ニッコリと女性は笑顔を作った。


< 96 / 366 >

この作品をシェア

pagetop