その手が離せなくて
少々お待ちください。と言って、チェックインの手続きを始めた女性を横目に、チラリとロビーを見渡す。
上品で、いかにも高級そうな旅館。
どうやら相当沢山の人達を招待しているのか、一ノ瀬さんの会社が旅館ごと貸し切っている様だ。
「さすが、一流企業」
やる事が派手だ。
それでも、確かに顔を広めるにはもってこいの機会かもしれない。
企画をやっていくうえで、人脈を広げる事も大切な事だ。
「望月様のお部屋は3階になっております」
ボーっとロビーを見つめながら、そんな事を思っていると不意に声がかかって我に返る。
慌てて前を向くと、フロントの女性がニッコリと笑って鍵を差し出していた。
「あ、ありがとうございます」
小さく会釈をして、荷物を持ってくれた女性に部屋まで案内してもらう。
こちらです。と言ってエレベーターまで向かおうとした。
その時――。