その手が離せなくて
ぐっと一度拳を握りしめて、足を前に出す。

これは仕事なんだ、と何度も自分に言い聞かせて。

そして、エレベーターのドアを開けたまま待っていた彼の方へ歩み寄った。


小さな箱の中に2人閉じ込められる。

互いに距離を取って、目も合わせずに。


最後に会ったのはいつだっただろう?

ずっと前の様な気もするけど。

最近だった様にも思う。

バタバタと仕事が忙しい事もあって、あっという間にこの日になった。

悩む時間もない程忙しかったのは、ありがたかったけれど。


――本当は内心、恐らく今日ここで会う事になるだろうとは思っていた。

これだけ取引先が集まるんだ。

会社の若きホープの彼が、顔を広めるこんな絶好の機会にいないはずがない。


だから、覚悟していた。

こうやって、会う事も。

こうなるかもしれない事も――。


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