クールな公爵様のゆゆしき恋情2
孤児院内部は、外観通りの印象だった。

手入れがされておらず、老朽化がかなり進んでいる。

壁は薄汚れてヒビが入っているし、扉の建てつけが悪くなっているのか、開閉のとき軋むような耳触りな音がする。

窓枠も同様で、隙間風が吹き込んで来て、院内の温度を下げているのに対策がされている様子はない。

私は眉をひそめてしまいそうになるのを堪えながら、院長に連れられ内部施設を一通り視察した。

五十人の子供達が朝、昼、晩と集う食堂。
身体を清める浴場。
四人一部屋の寝室。

どこも必ずと言っていい程、補修が必要な点がある。これでは子供達が健全な生活を送れると思えない。

だけど院長も補佐の修道士たちも何も感じていないようだ。
毎日見ているから慣れてしまっている?

「設備の説明は以上になります。あとは運営状況などを報告させて頂きたいので、院長室にお越しいただけますでしょうか」

「はい」

院長室に向かう途中の階段も廊下も埃だらけ。

これは運営費が足りないというだけでは無い。とにかく手入れがされていないのだ。

十歳までの子供達には院内の掃除をさせていると聞いたけれど、見た限りではどこもしばらく掃除をしていない様だ。

部屋に到着すると、院長は資料を取ってくるといい、私を置いて出て行った。

その途端、それまで黙って付き従っていたアンナが、溜まりかねた様に言う。

「ここは随分酷いところですね、ラウラ奥様についてアンテスの孤児院に何度か行ったことが有りますけど、これほど酷いところは初めてですよ」

「アンナ、声が大きいわ。でも……その通りね」

大きな声では言えないけど、私も同じ感想なので最終的には小さく頷く。

「ラウラ奥様が視察に来るのが分かっていたんですから、せめて掃除だけでもしっかりやればいいのに」

アンナはかなり不満のようだ。

「手が足りないのかもしれないわ。このリンブルクは子供の数も多いし」

「でも大人もそれなりの数いましたよ。掃除の手が足りない訳が有りません。その証拠にこの院長室は綺麗じゃないですか」

それは私も感じた事。
同じ建物内に有るとは思えない程、院長室だけ手入れが行き届いているのだ。
調度品も新しいものに見える。

「院長だけ良い生活。子供達はやけに元気がない。嫌なところです」

「……子供達の様子は私も気になったわ。あれは病気じゃないのかしら? 全体的に痩せているように見えたし」

私の言葉に、アンナは先ほど見た光景を思い出そうとしているのか、宙を睨みながら答えた。
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