クールな公爵様のゆゆしき恋情2
「リンブルグ出身なのに警備を担当しているの?」

イザークと言う名の青年から、目を逸らさないまま少女に問いかける。

先日院長から受けた説明によれば、リンブルグ孤児院出身の男子は卒業後殆どが鉱山で働く。

仕事内容は鉱夫で残念ながら現状では出世の道はないけれど、生活していくだけの報酬は貰えるので、皆つつましく働いていくと聞いていた。

孤児院出身の彼が、なぜ警備を担当しているのだろう。

「イザーク先輩はリンブルグ孤児院に来たのが遅かったそうです。孤児になる前は剣を習っていたそうでとても強かったから、独立した後に警備の仕事に就いたんです」

相変わらずしっかりした口調で、少女が答えてくれる。

「分かったわ。ありがとう」

私はそう微笑むと、少し離れたところで不安そうにこちらを眺めているラフスキーさんを呼び寄せた。

「公爵夫人、いかがでしょうか?」

私が何を言い出すのか不安で仕方が無いのか、ラフスキーさんはびくびくとした態度だ。

「話は終わりました」

「あ、はい。かしこまりました。ではお前達直ぐに地下に戻って……」

ほっとした様子で子供達に指示を出そうとするラフスキーさんを、私は鋭い声で遮った。

「待って、休憩したばかりで、まだ身体の疲れが取れていないはずよ。あなたは子供達にいつもこんな短時間の休憩しか与えていないの?」

「え?……あ、いいえ、そんな訳では……」

「だったら今も急ぐ必要はないでしょう? 子供達に水を与えてしっかりと休憩を取らせて」

いつになく強い口調で言うと、ラフスキーさんは戸惑った様に辺りに視線をさ迷わす。まるで誰かに助けを求めるかのように。

「どうかしましたか?」

「い、いえ……あの子供達の労働環境については、ハルトマン様の命令に従っているものですから」

「ハルトマン? 彼はリンブルグ孤児院の院長でしょう?」

怪訝な顔をする私に、ラフスキーさんは早口で答える。

「ハルトマン様はこの地域の全てを管理されている方です。孤児院だけでなくこの採掘場もハルトマン様の管理下になります。ですから子供達の労働環境の変更のご命令でしたらハルトマン様にお願いいたします。私に権限はありませんので」

ラフスキーさんは必死に責任逃れをする様だ。

呆れながらも、これ以上彼に何か言っても無駄だという事は分った。

やはり問題はハルトマン院長。
彼をなんとかしないといけない。

「分りました。ですが今日は私が言った通りに休憩を取らせて。それから日没前には孤児院に戻れるような時間に仕事を終らせて」

「で、ですがハルトマン様に伺わないと……」

「これはフェルザー公爵家としての命令です。それでも従わないつもりですか?」

「い、いえ……申し訳有りません、言いつけ通りに致します」

私の強い口調に、ラフスキーさんは慌てながら頭を下げる。

溜息が零れそうになるのを押さえながら、私はラフスキーさんを放置してイザークのほうに足を進めた。
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