強引ドクターの蜜恋処方箋
雄馬さんのお父さんは、T大学病院だけでなく世界きっての有名外科医。

あらためてそんなすごい人の息子が雄馬さんだってことを思い出す。

「親父はもともとK大病院の院長と親しくて、昔から俺とその娘を結婚させたがってたんだ。ただ、俺がサラリーマンの道へ進んだこともあって、一旦その縁談はなくなったはずだったけど、俺が研修医として戻ってきたことでまた復活したらしい。それで、今日は親父が勝手にその娘との食事会をセッティングして俺を向かわせた。俺も断りたかったけれど、K大病院院長には昔から世話になってるし、とりあえず失礼のないよう会うだけ会ってその娘には事情を話して謝ってきた。もちろん親父はそんなこと知らないから、きっと明日俺のところに怒鳴り込んでくるだろうけど」

そう言うと私の肩を抱き寄せた。

「俺は何があってもチナツと結婚する。親父には必ず俺が説得するつもりだ。わかってもらえなかったら、家を出たっていいと思ってる。だから、もう少し待っててほしい」

「そんなこと・・・」

私は雄馬さんの胸に手を当てて言った。

「・・・そんなこと、私は全然大丈夫なのに、どうしてずっと言ってくれなかったんですか?これから先もずっと2人で生きていくんだから、一緒に乗り越えましょう。これまでもそうだったように」

「チナツ・・・」

「それから、家を出るなんて、そんな寂しいこと考えないで。時間をかけて話せばきっとお父さんは分かって下さるはず。だって、雄馬さんのお父さんなんだもの。私は信じてます」

雄馬さんの顔を見上げてはっきりと自分の気持ちを伝えた。

「チナツ、強くなったな。まるで戦闘に先陣切って進むジャンヌ・ダルクみたいだ」

そう言いながら私の髪を優しく撫でて微笑む。

「だって私にはいつも雄馬さんがいるから」

私も笑った。

「チナツ。どんなことがあっても一緒にいよう」

雄馬は私の頬を右手で包み、私の瞼にそっとキスをした。

ベランダの外を見ると、白い雪がちらついていた。

明日の朝は街を雪が白く染めるかもしれない。

でも、雪はかならず溶けて、また元の街に戻って行く。

雄馬さんのお父さんはきっとわかってくれるはず。

『自分を信じて』

母の声が聞こえたような気がした。






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