強引ドクターの蜜恋処方箋
「はい!」
私を呼んだ先輩のデスクに急いだ。
「悪いけど、私今手が離せないから、この文献、至急松井教授のとろこに持って行ってほしいの」
先輩はそう言うと、文献のぶ厚い束を茶封筒に入れて私に手渡した。
松井教授って、まさかまさかの雄馬さんのお父さんだよね?
「実習中に松井教授の顔おがめるなんて、南川さんもラッキーよ」
先輩は私にウィンクしながら笑った。
その存在は有名だったけど、忙しくて世界中を飛び回ってる松井教授と一般の看護師達でも直接対面できるのはかなり貴重なことらしい。
っていうか、きゃー!どうしよう!?って感じなんですけど。
胸がバクバクして、頭の中は真っ白だった。
「ちょっとちょっと、南川さん表情が固まっちゃってるけど大丈夫?松井教授はとても立派な方だけど、紳士的で優しいからそんな緊張しなくても大丈夫よ。さ、医局までいってらっしゃい!」
先輩は明るい声で私の背中をポンと押した。
少し前につんのめりながら、なんとか体勢を立て直して、分厚い封筒を小脇にしっかり抱えた。
初めて会う、雄馬さんのお父さん。
どんな人なんだろう。
ドキドキする胸を封筒で押さえながら、小走りに医局に向かった。
医局自体、初めて訪れる場所だった。
部屋をノックすると、医局に常勤している秘書らしき女性が「はい」と言って顔を出した。
事情を話すと、「一番奥で座っているのが松井教授よ」と教えてくれた。
やっぱり、私が持って行かないといけないんだよね?
はぁ~。
一礼すると、大きく深呼吸して医局に一歩足を踏み入れた。
外科病棟の喧騒と違い、医局内はとても落ち着いていて静かだった。
秘書が何人かいて、その奥に教授席がいくつかある。
皆、仕事で不在なのか座っているのは松井教授だけだった。
教授はとても大柄に見えた。
スーツの上から羽織る白衣ががっしりとした体格に馴染んでいる。
白髪はぴりっと品良く横分けされていて、眼鏡を上下させながら難しい顔をしてデスクで書類に目を通していた。
その姿がだんだん近づいてくると緊張がピークになる。
こういう時って、どういう風に切り出せばいいんだろ?
その時、松井教授が眼鏡を外して書類から顔を上げた。
正面に立っていた私とバッチリ目が合う。
思わず体が硬直したけれど、慌てて教授に一礼した。
教授はそんな私ににっこり微笑むと、
「お。お疲れさん。その封筒は頼んでいた文献か?」
と言った。
その声は想像していたよりもずっと優しく響いた。
そして微笑む目は、私がいつも見ている雄馬さんと同じ目。
そんな松井教授の姿に少しずつ緊張が治まっていく。
「はい。遅くなり申し訳ありません。こちらになります。よろしくお願いします」
私はそう言うと松井教授に封筒を手渡した。
「ああ、ありがとう。急がせて悪かったね。これからすぐに出張なんだ」
松井教授はすくっと立ち上がると、脇に置いてあった自分の黒の皮バックにその封筒を入れた。
そして白衣を脱ぐと、秘書を呼んだ。
「これから向かうから、車回しといて。」
秘書は教授のコートを持って来ると、すぐに自分の席に戻り内線電話をかけているようだった。
思わず、普段目にしないその優雅で洗練された空気に呑まれて立ちつくしていた。
松井教授がそんな私を見て笑った。
「なんだ、そんな不思議な光景か?」
「い、いえ。すみません」
「君、名前は?」
秘書から受け取ったコートを羽織りながら私に尋ねた。
え!
名前聞かれてちゃってるんですが・・・私ってばれないよね?
教授の目は相変わらず優しく私を見つめている。
「みなみ・・・、」
と言い掛けたその時、横から秘書がやってきて教授のバッグを持つと「車お手配しました」と言った。
「ああ。すぐ行く」
教授は秘書に答えると、私の方を見て「ありがとう」と言い秘書と一緒に部屋をゆっくり出て行った。
私を呼んだ先輩のデスクに急いだ。
「悪いけど、私今手が離せないから、この文献、至急松井教授のとろこに持って行ってほしいの」
先輩はそう言うと、文献のぶ厚い束を茶封筒に入れて私に手渡した。
松井教授って、まさかまさかの雄馬さんのお父さんだよね?
「実習中に松井教授の顔おがめるなんて、南川さんもラッキーよ」
先輩は私にウィンクしながら笑った。
その存在は有名だったけど、忙しくて世界中を飛び回ってる松井教授と一般の看護師達でも直接対面できるのはかなり貴重なことらしい。
っていうか、きゃー!どうしよう!?って感じなんですけど。
胸がバクバクして、頭の中は真っ白だった。
「ちょっとちょっと、南川さん表情が固まっちゃってるけど大丈夫?松井教授はとても立派な方だけど、紳士的で優しいからそんな緊張しなくても大丈夫よ。さ、医局までいってらっしゃい!」
先輩は明るい声で私の背中をポンと押した。
少し前につんのめりながら、なんとか体勢を立て直して、分厚い封筒を小脇にしっかり抱えた。
初めて会う、雄馬さんのお父さん。
どんな人なんだろう。
ドキドキする胸を封筒で押さえながら、小走りに医局に向かった。
医局自体、初めて訪れる場所だった。
部屋をノックすると、医局に常勤している秘書らしき女性が「はい」と言って顔を出した。
事情を話すと、「一番奥で座っているのが松井教授よ」と教えてくれた。
やっぱり、私が持って行かないといけないんだよね?
はぁ~。
一礼すると、大きく深呼吸して医局に一歩足を踏み入れた。
外科病棟の喧騒と違い、医局内はとても落ち着いていて静かだった。
秘書が何人かいて、その奥に教授席がいくつかある。
皆、仕事で不在なのか座っているのは松井教授だけだった。
教授はとても大柄に見えた。
スーツの上から羽織る白衣ががっしりとした体格に馴染んでいる。
白髪はぴりっと品良く横分けされていて、眼鏡を上下させながら難しい顔をしてデスクで書類に目を通していた。
その姿がだんだん近づいてくると緊張がピークになる。
こういう時って、どういう風に切り出せばいいんだろ?
その時、松井教授が眼鏡を外して書類から顔を上げた。
正面に立っていた私とバッチリ目が合う。
思わず体が硬直したけれど、慌てて教授に一礼した。
教授はそんな私ににっこり微笑むと、
「お。お疲れさん。その封筒は頼んでいた文献か?」
と言った。
その声は想像していたよりもずっと優しく響いた。
そして微笑む目は、私がいつも見ている雄馬さんと同じ目。
そんな松井教授の姿に少しずつ緊張が治まっていく。
「はい。遅くなり申し訳ありません。こちらになります。よろしくお願いします」
私はそう言うと松井教授に封筒を手渡した。
「ああ、ありがとう。急がせて悪かったね。これからすぐに出張なんだ」
松井教授はすくっと立ち上がると、脇に置いてあった自分の黒の皮バックにその封筒を入れた。
そして白衣を脱ぐと、秘書を呼んだ。
「これから向かうから、車回しといて。」
秘書は教授のコートを持って来ると、すぐに自分の席に戻り内線電話をかけているようだった。
思わず、普段目にしないその優雅で洗練された空気に呑まれて立ちつくしていた。
松井教授がそんな私を見て笑った。
「なんだ、そんな不思議な光景か?」
「い、いえ。すみません」
「君、名前は?」
秘書から受け取ったコートを羽織りながら私に尋ねた。
え!
名前聞かれてちゃってるんですが・・・私ってばれないよね?
教授の目は相変わらず優しく私を見つめている。
「みなみ・・・、」
と言い掛けたその時、横から秘書がやってきて教授のバッグを持つと「車お手配しました」と言った。
「ああ。すぐ行く」
教授は秘書に答えると、私の方を見て「ありがとう」と言い秘書と一緒に部屋をゆっくり出て行った。