強引ドクターの蜜恋処方箋
松井教授・・・雄馬のお父さん。

とても優しくて、穏やかで、細やかな気遣いのできる素敵な方。

でもあれだけの肩書きを背負った教授は、誰もが一瞬足がすくんでしまうほどの存在感だった。

午前中の診察で粗っぽく直されたカルテを整理しながら、今日初めて出会った松井教授のことを思い出していた。

あんなすごい人なんだもん。

その息子の彼女が私だんなんて。

壁に掛けられた鏡に映る自分を見て軽くため息をついた。

「チナツさん、それ、全部反対です」

ユウヒが私の横に来て、カルテが全部逆さまになってるのに気付いて教えてくれた。

「あ、ごめん」

だめね。

考え事してちゃ。

「そうだ、チナツさん、今日あの有名な松井教授にお会いしたんでしょ?どうでした?」

今ここでそこ聞いてくるかぁ。

私はカルテを机上でトントンと揃えると苦笑しながら首をすくめた。

「やっぱりすごいオーラでした?」

ユウヒは私の顔をのぞき込んだ。

「うん。すごかった。でも、すごく優しかったわ」

「あのイケメン松井先生とは親子だからやっぱり似てるんですか?」

カルテを棚に戻すと、

「うん、似てた」

と答えた。

「へー!じゃ、きっと教授も昔はイケメンだったんですね!」

と無邪気に言ったユウヒがおかしくて思わず吹き出した。

「ほらほらおしゃべりばっかりしてないで、手が空いたらこっち来て」

先輩が片手に腰に手をやったまま私達に手招きしていた。

「はぁい!」

私達は顔を見合わせると、慌てて先輩が手招きする方へ走って行った。



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