強引ドクターの蜜恋処方箋
雄馬さんは昨晩から北海道に学会出張に出ていた。

その日の夜遅くに電話が鳴る。

『チナツ?外科病棟はどう?かなり慌ただしいだろ』

つい最近まで外科に所属していた雄馬さんは、その状況をよく知っていた。

「そうですね。でも明るくて優しい先輩が多くて楽しかったです。ユウヒも今回一緒だし大丈夫。雄馬さんの方はどうですか?」

『ただただ寒い』

そのふざけた言い方に笑ってしまう。

「北海道ですもんね。でも、食事はおいしいんじゃないですか?」

『うん。学会の後、皆で居酒屋に行ったんだけどお魚が新鮮でおいしかったよ。あんなうまい魚、久しぶりだったな』

「いいなぁ」

雄馬さんの弾んだ声を聞いてるだけで、楽しい気持ちになる。

『いつか一緒に行こう、北海道』

「はい。おいしいものいっぱい食べたいです」

『チナツは本当食べることばっかだよな』

雄馬さんが朗らかに笑った。

「あ」

今日、松井教授に会ったこと話した方がいいかな。

『なに?』

雄馬さんは私の「あ」にすぐに反応した。

でも、ちゃんと顔見て話した方がいいような気がした。

今日はもう遅いし、話も長くなりそうだしね。

「いつ帰ってくるの?」

『明後日の夜』

「きっとおいしいもの食べて帰ってくるから、その日は簡単な晩御飯でいいですよね?」

『ほんと最近優しくないよなぁ』

電話越しに2人で笑った。

この幸せが、皆に祝福された幸せになることを祈らずにはいられなかった。

「雄馬さん、おやすみなさい」

『チナツ、愛してるよ。おやすみ』

何度言われてもくすぐったいその言葉は、寒い冬でも私の体中を暖かくしてくれる。

「私も大好きです」

そう返す度に、顔が熱い。

まだ「愛してる」っていう言葉は緊張してなかなか言えなかった。

我ながら何今更恥ずかしがってるんだかって突っ込みたくなるけど。










< 106 / 114 >

この作品をシェア

pagetop