強引ドクターの蜜恋処方箋
2月の夜は一段と冷える。
夜空も凍り付いたように静としていた。
冷たい風が私の横を吹き抜ける。
「さむっ」と思わず声が漏れて、マフラーに顔を埋めた。
駐車場の横を通っていくと、駐車場から病院へ続く小道脇に黒い塊が見えた。
街灯から離れていて、よく見えない。
目を細めながら、近づいていくと誰かがうずくまっているようだった。
こんな寒い日に?
慌ててその影に走り寄った。
その人は長めのコートを羽織り、三角座りをするような形で頭を垂れていた。
「あの、大丈夫ですか?」
その人の背後から小さな声で尋ねた。
「・・・うう」
その人は、少し苦しそうに反応する。
心配になって、その人の肩を擦ってみた。
「誰か・・・」
という声が聞こえたような気がした。
頭を垂れているその人の脈を測りながら、その顔をのぞき込む。
あれ?この髪型。この眼鏡。最近どこかで会ったような。
この人は!
暗闇の中ではっきり見えなかったけれど、松井教授に間違いなかった。
意識が朦朧としている教授の耳元にそっと声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
そのままの姿勢で随分時間が経っていたのか、教授の体はすっかり冷え切っていた。
脈も遅く、意識も薄い。
こないだのメニエルの時とは明らかに状況が違っていた。
私は自分のダウンコートを脱いで教授の肩にかけて背中を擦った。
私の吐く息が白い。
「今、病院に残ってるお医者様を呼びますから、もう少し待っていて下さいね」
私は教授の肩に手を置いて、ゆっくりはっきりと伝えた。
教授はかすかに頷いた。
スマホからT大学病院の外科病棟につなぐ。
事情を説明したら、すぐに内科の先生と看護師何人かが担架を持ってあらわれた。
教授は担架にゆっくり寝かされ毛布にくるまれると、そのまま病院内に運び込まれて行った。
私も気になるのでその担架に続く。
至急血液検査、CT検査が行われた。
一通りの結果が出たらしく、それまで慌ただしく行き交っていた看護師達のペースが落ち着いてきた。
しばらくすると、病室の横のベンチ座っていた私の前に担当した内科医の先生がやってきた。
「特に検査で異常は見当たらないから、持病のメニエルだと思う。ただ、血圧が今かなり高い状態だ。あの寒空であれ以上放置されていたら危険だったかもしれない。最初に発見してくれた君」
先生は、私としっかり目を合わせた。
「君はここの看護師か?」
「いいえ、看護学校から今実習に来ているものです」
「そうか。君のおかげで教授は大事に至らなかった。ありがとう」
「いいえ」
松井教授、何もなくてよかった。ホッとしながら、私は頭を下げた。
「君、名前は?」
「え?」
別に、名前はいいんですけど。
だって・・・。
「名前は?」
私がすぐに名前を言わないので不思議に思ったのか、先生は眉を片側だけ上げながら更に続けた。
「松井教授が是非君にお礼がしたいと言っていてね」
「いえ、たまたま通りがかっただけで、そんな大したことしてないのでお礼なんて・・・」
私は口ごもってうつむいた。
「ううん」
先生は腕を組んで困った様子で顎を撫でながらしばらく考えていた。
「君の気持ちは分かるが・・・。じゃ、せめて君の実習病棟はどこだい?」
「げ・・・か、です。」
「外科か、わかった。教授には君の気持ちも伝えておくから。今日は本当に助かったよ、あらためてありがとう」
先生はにっこり微笑むとそのまま白衣を翻して、松井教授の病室へ戻って行った。
夜空も凍り付いたように静としていた。
冷たい風が私の横を吹き抜ける。
「さむっ」と思わず声が漏れて、マフラーに顔を埋めた。
駐車場の横を通っていくと、駐車場から病院へ続く小道脇に黒い塊が見えた。
街灯から離れていて、よく見えない。
目を細めながら、近づいていくと誰かがうずくまっているようだった。
こんな寒い日に?
慌ててその影に走り寄った。
その人は長めのコートを羽織り、三角座りをするような形で頭を垂れていた。
「あの、大丈夫ですか?」
その人の背後から小さな声で尋ねた。
「・・・うう」
その人は、少し苦しそうに反応する。
心配になって、その人の肩を擦ってみた。
「誰か・・・」
という声が聞こえたような気がした。
頭を垂れているその人の脈を測りながら、その顔をのぞき込む。
あれ?この髪型。この眼鏡。最近どこかで会ったような。
この人は!
暗闇の中ではっきり見えなかったけれど、松井教授に間違いなかった。
意識が朦朧としている教授の耳元にそっと声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
そのままの姿勢で随分時間が経っていたのか、教授の体はすっかり冷え切っていた。
脈も遅く、意識も薄い。
こないだのメニエルの時とは明らかに状況が違っていた。
私は自分のダウンコートを脱いで教授の肩にかけて背中を擦った。
私の吐く息が白い。
「今、病院に残ってるお医者様を呼びますから、もう少し待っていて下さいね」
私は教授の肩に手を置いて、ゆっくりはっきりと伝えた。
教授はかすかに頷いた。
スマホからT大学病院の外科病棟につなぐ。
事情を説明したら、すぐに内科の先生と看護師何人かが担架を持ってあらわれた。
教授は担架にゆっくり寝かされ毛布にくるまれると、そのまま病院内に運び込まれて行った。
私も気になるのでその担架に続く。
至急血液検査、CT検査が行われた。
一通りの結果が出たらしく、それまで慌ただしく行き交っていた看護師達のペースが落ち着いてきた。
しばらくすると、病室の横のベンチ座っていた私の前に担当した内科医の先生がやってきた。
「特に検査で異常は見当たらないから、持病のメニエルだと思う。ただ、血圧が今かなり高い状態だ。あの寒空であれ以上放置されていたら危険だったかもしれない。最初に発見してくれた君」
先生は、私としっかり目を合わせた。
「君はここの看護師か?」
「いいえ、看護学校から今実習に来ているものです」
「そうか。君のおかげで教授は大事に至らなかった。ありがとう」
「いいえ」
松井教授、何もなくてよかった。ホッとしながら、私は頭を下げた。
「君、名前は?」
「え?」
別に、名前はいいんですけど。
だって・・・。
「名前は?」
私がすぐに名前を言わないので不思議に思ったのか、先生は眉を片側だけ上げながら更に続けた。
「松井教授が是非君にお礼がしたいと言っていてね」
「いえ、たまたま通りがかっただけで、そんな大したことしてないのでお礼なんて・・・」
私は口ごもってうつむいた。
「ううん」
先生は腕を組んで困った様子で顎を撫でながらしばらく考えていた。
「君の気持ちは分かるが・・・。じゃ、せめて君の実習病棟はどこだい?」
「げ・・・か、です。」
「外科か、わかった。教授には君の気持ちも伝えておくから。今日は本当に助かったよ、あらためてありがとう」
先生はにっこり微笑むとそのまま白衣を翻して、松井教授の病室へ戻って行った。