強引ドクターの蜜恋処方箋
「チナツも、何か勉強始めてみたら?これからどんどん脳細胞は破壊されてくんだから、今が最後のチャンスだって」

マリは、ようやく手つかずのパンケーキを口に放り込んで、目をキラキラ輝かせながら言った。

「そうだよねぇ。・・・だけど何始めればいいんだか」

軽くため息をつくと体の力がどんどん失われていくようだった。

「今の会社は辞める気はないの?」

「せっかくここまでキャリア積んできたのに、もったいないよ。別に居心地も悪くないし」

マリは、左手で頬づえをついて、右手で私を指さした。

「それがダメだっていうの。ぬるま湯に浸かってただけじゃふやけて終わっちゃうだけ。このぬるま湯から思い切って飛び出さなくちゃ。飛び出さないと何も変わらないし、持ってる可能性すら無駄にしちゃうよ。とにかく新しい自分を試す何かはないの?」

ふむふむ。

なかなか手厳しいこと言ってくれるじゃない。

この年になって、再就職なんて楽な話じゃないのわかってるくせに。

ても、これくらい思わないと何かって始められないのかもしれない。

カフェの窓から行き交う人の波をぼんやりと眺めた。

私だって、本当はなりたかった職業がある。

だけど、当時はその仕事の大変さやきつさばかりが目について、踏み切れなかった。

特に他にやりたいこともなくて、結婚までのつなぎ的な考えで今の会社で働くことを選んだ。

やりがいって何なんだろう。

とりあえず、自分の仕事をきっちりこなして帰る。

そのくり返しの毎日。

そういうのにすっかり慣れてしまっていた。

今更、自分のやりたかったものに向かうなんて、私にできるんだろうか。

私もそんなに若いっていう年齢でもないし。
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