強引ドクターの蜜恋処方箋
看護師になりたいって思ったのは、私が丁度二十歳の時。

母親が急に倒れた。

いつも元気いっぱいの笑顔をふりまいていた母が倒れて入院するだなんて、寝耳に水のような出来事だった。

ショックだった。

信じられない。

信じたくない。

不安な気持ちがぐるぐると体中を駆け巡って、自分のあるべき姿が少しずつ壊されているようだった。

母がこのまま私のそばからいなくなったらどうしよう。

二十歳にもなってようやく母の存在が私にとってかけがえのないものだってことを実感した時でもあった。

そんな母が検査と治療のためしばらく入院し、医師から詳しく今後の病状や薬の副作用について聞かされた後、あまりのショックに放心状態で廊下の椅子に座ったまま動けなかった。

不安でとても平静ではいられなかったそんな時。

母を担当してくれていた看護師さんが不安で震える私の背中をゆっくりとさすってくれた。

何も言わず、優しく温かい手の平で何度も何度もさすってくれた。

ただそれだけだったけれど、どれほど私の気持ちが慰められたかしれない。

幼い頃に離婚した母は、私を一人で育ててくれた。

だから、母は唯一無二の存在でいなくなるなんてことは私には考えられなかったから。

だけど、そんな私を支えてくれたのは、何の血のつながりもないその看護師さんだったんだ。



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