強引ドクターの蜜恋処方箋
看護師さんの温かい手の平の感触は今もしっかり覚えている。

その当時は、私自身も誰かの気持ちを支えられる看護師になりたいと思った。

きっとあの出会いは、私を導いているんだって感じずにはいられなかった。

ただ、母の看病が続いたこともあり、勉強をする時間も気持ちの余裕もないまま時は流れた。

そして、いつの間にか早くいい人と結婚して幸せになることが、母を安心させられるんだという風に気持ちが変わり、今の会社に就職をしたんだ。

結局、未だに独身の私は母を安心させられていないんだから、本当にこれでよかったんだか。

マリのいたずらっぽい視線から目を反らして、紅茶を飲んだ。


「後悔しない人生を歩んで行こうね。お互い」

マリはぽつりとそうつぶやいて、パンケーキの残りを平らげた。

私は、少し笑ってうなずきながら、マリの言葉を頭の中で反芻していた。
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