強引ドクターの蜜恋処方箋
「ごめん。待たせて」

松井さんは袋に入れられたさっきの本を小脇に抱えて、私の方へ歩いてきた。

「デートかなんかの帰り?」

相変わらずクールな眼差しで私を見下ろす。

「あいにくデートじゃありません。学生時代の友人と会ってました」

「そうか」

しばらくの沈黙。

眼鏡の奥の目が何かを考えているようだった。

「とりあえず本屋から出ようか」

松井さんは自分の親指を本屋の出口に向けた。

特に拒む理由もないし、松井さんが買った本が気になって頷いた。

二人並んでゆっくりと歩き出す。

「これからちょっと俺に付き合わない?」

松井さんが前を向いたまま静かに聞いてきた。

こういう時ってどう返事したらいいんだろう。

ほとんど会話をしたことのない、ちょっぴり苦手意識のある上司と2人。

会話は持つんだろうか。

しばらく黙って考えていると、松井さんが切り出した。

「俺が今買った本、気になってるだろ」

彼の顔を見上げると、いつもの切れ長の目で私をじっと見ていた。

その表情からは、松井さんの真意が見えなかったけど、その眼差しの奥にぐっと吸い込まれるような強い光を見たような気がした。

不覚にもその目にドキンとして目をそらす。

「・・・気にならないと言えば嘘になりますけど」

「俺は南川さんが買ってた本、すごく気になる」

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