強引ドクターの蜜恋処方箋
「松井さんも見てたんですか?私が買った本」

「見てたっていうか、見えたって感じだけど」

「ずるい言い方ですね」

私は少し笑って言った。

松井さんもうつむいて、フッと口元をゆるめた。

やっぱり松井さんは笑った顔の方がいい。

不思議と彼との間に穏やかな空気が流れていた。

「もしよかったら、少しお茶でもどうかと思うんだけどさ」

松井さんが顔を上げて言った。

少し長めの前髪が彼の目を半分隠していてその表情がよくわからない。

「じゃ、少しだけ」

衝動的に応えていた。

松井さんみたいに頭のいい切れ者は私みたいな野暮ったい人間は苦手かと思ってたから、お茶に誘ってくれるなんて正直意外で驚いた。

松井さんが買った本もすごく気になるし。

あまり普段しゃべらないけど、こういう時こそ上司とコミュニケーションしなきゃ。

職場環境改善にもつながるよね。

なんだかんだ言い訳を頭でつぶやきながら、苦手なはずの彼とこれから過ごす時間に不思議と浮き立っている自分がいた。



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