強引ドクターの蜜恋処方箋
「以前はよくここへ家族で来てたんだ。今は1人でよく来るんだけど、この景色を見ながらのコーヒーは格別だよ」

松井さんは足を組み直すと、運ばれてきた水を一口飲んだ。

テーブルに肘をつけたまま水を飲んでるその横顔は見とれるほど絵になる。

なんていうか、持って生まれた品性っていうのか、作ろうと思っても作れないような空気感をまとっていた。

「素敵な場所ですね」

「ああ。南川さんも気に入ってくれた?」

松井さんは私に視線を向けると優しい目で微笑んだ。

うわ。

見慣れない松井さんの柔らかい表情にまた顔が熱くなる。

まるで私、彼に恋してるみたいじゃない?

普段の仕事でのクールな一面とのギャップに戸惑ってる自分がいた。

店員を呼び、松井さんはカフェオレ、私はミルクティーを頼んだ。

それぞれの飲み物が運ばれてくると、松井さんはカフェオレを口に含み「ふぅ」と息を吐いた。

そして、私の方に体を向けた。

「で、本題に入るけど」

松井さんは、頬杖をついたまま私を見つめながら続けた。

「南川さんは、看護師になろうとしてるの?」

あまりにもはっきりと言われて、飲んでたミルクティを吹きそうになった。

「え、えらく直接的な聞き方されるんですね」

「こんな話、間接的に聞いたってしょうがないだろ。俺、まどろっこしいこと嫌いだから」

松井さんは私の方を挑戦的な目でにんまり見つめていた。

そういう見つめられ方されたら、心の奥まで見透かされそうですごくドキドキしてしまう。

「松井さんに教える必要はないと思うんですが」

心のドキドキを見破られないよう、敢えて視線を外し窓の外を見ながら返した。

松井さんは「この期に及んでそうくるか」と言って、笑いながら上体を起こしカフェオレに口をつけた。

「それは今更だな。お互いその話をするために一緒にここに来たんじゃない?」

全く動じることもなく、あっけなく私の初球はかわされた。

・・・確かに。

「じゃ、俺から言おうか。今君が気になってること」

彼はイスの背もたれにゆったり体を預けた。

そして、

「俺、医者になろうと思ってる」

と何のためらいもなく私をまっすぐ見てはっきりと言った。

まさかとは思ってたけど、やっぱりな答えを言い放った松井さんの目を凝視する。

「お、お医者様ですか?」

「ああ」

「って、今から勉強して国家試験を受けるんですか?」

「もちろん」

確か、医学部卒業してるってユカが言ってたよな。

試験だけパスすれば、医者になれるわけなんだ。

って、そんな単純な話じゃないと思うけど。


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