強引ドクターの蜜恋処方箋
松井さんは微笑みながら、あの当時を回想している私の顔を見つめていた。
「面接の日、南川さんびしょ濡れだったよね。面接の時、どうして濡れてるの?って君に尋ねたら『傘を忘れて』って答えただろ。実は俺、南川さんの到着が遅れていたからどうしたんだろう?って10階のフロアの窓からずっと下の横断歩道を見ていたんだよね」
「え?」
どうして濡れてるの?って聞いたのは松井さんだったんだ。
「雨の中、君はおばあさんの肩を抱いて横断歩道一緒に渡ってあげて、その足でまた歩道で何かを必死に探していただろ?傘もささずにね。こいつ、何やってんだって思ったよ。そうしたら、その後面接に遅れてきた南川さんがその横断歩道で探し物してた女性だったわかって。びしょ濡れで面接に遅れてきた上に「傘を忘れた」だなんてさ。遅れたからには、きちんと報告義務があるわけで。それを怠ったと見なした3名の面接官は皆君を採用しないって決めてたんだ。もちろん俺もその1人」
あの時の私、全部見られてたの?松井さんに・・・。
しかも不採用になってたんだ。そりゃそうだよね、いいとこなしだったもの。
「だけど、あの日の夕方。1人のおばあさんが受付に来てね」
おばあさん?
「今日、びしょ濡れになったお嬢さんがここの面接受けに来ませんでしたか?って。君から借りだ傘を返しにきたんだ。おばあさんから事情を聞いた時、南川さんがどうしてあんなに濡れていて、面接に遅刻した上に「傘を忘れた」なんていうわかりきった嘘をついたのかが理解できたんだ。君はあのおばあさんのせいにしたくなかったんだろ?俺、おばあさんからその話聞いた時、ちょっと感動しちゃってさ。その後、3名の面接官でもう一度南川さんの事話し合って、全会一致で君の採用が急遽決まった」
松井さんは遠い目をしながら、カフェオレを静かに飲んだ。
私の採用は、松井さんが後押ししてくれたんだ。
色んな記憶と気持ちが頭の中で混ざり合って、なぜだかドキドキ胸が震えていた。
「その後、君が入社する直前に俺のニューヨーク支店への転勤が決まってね。そのまま日本を発ったから南川さんとはそれきり会えなかったってわけ。で、今更で申し訳ないんだけど、君の傘、俺が預かったままなんだ」
「え?松井さんが?」
松井さんは前を向いて目を伏せた。
「おばあさんから傘を預かったのは俺だったんだけど、どうしても俺から君に直接その傘を渡したくてずっと持ってた。なのに転勤が決まってバタバタしてたら、結局傘も一緒にニューヨークに持って行っちゃって。ごめん、今度返すよ」
あの時、おばあさんに渡した傘。
まさかずっと松井さんが持ってたなんて。
6年の時を超えて不思議な巡り合わせを感じずにはいられない話だった。
夢の中で松井さんの声を聞いているようなふわふわした気持ちのまま窓の外に目をやると、緑が風に揺れていた。
ぼんやりと緑を眺めていたら、耳元で松井さんの声が響いた。
「・・・好きな人はいるの?」
ドクン。
声のする方に顔を向けた。
松井さんはほおづえをついたまま、私をじっと見つめていた。
そんな澄んだ瞳で見つめられたら・・・。
顔が熱い。
「どうしてそんなこと聞くんですか?」
手元に視線を落としながら聞き返した。
「君のことをあの面接の日以来ずっと忘れられなかったからさ」
「え?」
松井さんの方に目を向けた。
「じょ、冗談ですよね」
私はその真意に戸惑いながら、慌てて残りの紅茶を飲み干した。
松井さんはうんともすんとも言わないまま僅かに口元を緩めると、窓の外に顔を向けた。
窓の外の緑は穏やかに風を受けて揺れていた。
「面接の日、南川さんびしょ濡れだったよね。面接の時、どうして濡れてるの?って君に尋ねたら『傘を忘れて』って答えただろ。実は俺、南川さんの到着が遅れていたからどうしたんだろう?って10階のフロアの窓からずっと下の横断歩道を見ていたんだよね」
「え?」
どうして濡れてるの?って聞いたのは松井さんだったんだ。
「雨の中、君はおばあさんの肩を抱いて横断歩道一緒に渡ってあげて、その足でまた歩道で何かを必死に探していただろ?傘もささずにね。こいつ、何やってんだって思ったよ。そうしたら、その後面接に遅れてきた南川さんがその横断歩道で探し物してた女性だったわかって。びしょ濡れで面接に遅れてきた上に「傘を忘れた」だなんてさ。遅れたからには、きちんと報告義務があるわけで。それを怠ったと見なした3名の面接官は皆君を採用しないって決めてたんだ。もちろん俺もその1人」
あの時の私、全部見られてたの?松井さんに・・・。
しかも不採用になってたんだ。そりゃそうだよね、いいとこなしだったもの。
「だけど、あの日の夕方。1人のおばあさんが受付に来てね」
おばあさん?
「今日、びしょ濡れになったお嬢さんがここの面接受けに来ませんでしたか?って。君から借りだ傘を返しにきたんだ。おばあさんから事情を聞いた時、南川さんがどうしてあんなに濡れていて、面接に遅刻した上に「傘を忘れた」なんていうわかりきった嘘をついたのかが理解できたんだ。君はあのおばあさんのせいにしたくなかったんだろ?俺、おばあさんからその話聞いた時、ちょっと感動しちゃってさ。その後、3名の面接官でもう一度南川さんの事話し合って、全会一致で君の採用が急遽決まった」
松井さんは遠い目をしながら、カフェオレを静かに飲んだ。
私の採用は、松井さんが後押ししてくれたんだ。
色んな記憶と気持ちが頭の中で混ざり合って、なぜだかドキドキ胸が震えていた。
「その後、君が入社する直前に俺のニューヨーク支店への転勤が決まってね。そのまま日本を発ったから南川さんとはそれきり会えなかったってわけ。で、今更で申し訳ないんだけど、君の傘、俺が預かったままなんだ」
「え?松井さんが?」
松井さんは前を向いて目を伏せた。
「おばあさんから傘を預かったのは俺だったんだけど、どうしても俺から君に直接その傘を渡したくてずっと持ってた。なのに転勤が決まってバタバタしてたら、結局傘も一緒にニューヨークに持って行っちゃって。ごめん、今度返すよ」
あの時、おばあさんに渡した傘。
まさかずっと松井さんが持ってたなんて。
6年の時を超えて不思議な巡り合わせを感じずにはいられない話だった。
夢の中で松井さんの声を聞いているようなふわふわした気持ちのまま窓の外に目をやると、緑が風に揺れていた。
ぼんやりと緑を眺めていたら、耳元で松井さんの声が響いた。
「・・・好きな人はいるの?」
ドクン。
声のする方に顔を向けた。
松井さんはほおづえをついたまま、私をじっと見つめていた。
そんな澄んだ瞳で見つめられたら・・・。
顔が熱い。
「どうしてそんなこと聞くんですか?」
手元に視線を落としながら聞き返した。
「君のことをあの面接の日以来ずっと忘れられなかったからさ」
「え?」
松井さんの方に目を向けた。
「じょ、冗談ですよね」
私はその真意に戸惑いながら、慌てて残りの紅茶を飲み干した。
松井さんはうんともすんとも言わないまま僅かに口元を緩めると、窓の外に顔を向けた。
窓の外の緑は穏やかに風を受けて揺れていた。