強引ドクターの蜜恋処方箋
『南川 チナツ様 

 おはようございます。

 先日は、面接の資料ありがとう。

 確かに受け取りました。

 今日はジムに行きますか?


 営業部販売課   田村 颯人』


相変わらず、爽やかで嫌みのない文面。ちょっとした気遣いや優しい言葉にきっと惑わされる女性はたくさんいるのかもしれない。

ジムに行く日は毎週金曜日と決めていた。

彼氏もいないし、せっかくの花金を1人で過ごすくらいなら、ちょっとでも自分のためになることしたいと思って。それに、金曜はジムも他の曜日より人も少ないっていうこともあった。

田村さんもなぜだか近頃私の行く金曜日はいつもジムに来ていて、こんなメールが金曜日の朝届くようになっていた。

あれだけモテて仕事もできる田村さんだから、金曜はお誘いも多いと思うんだけどね。

まさか、私を狙ってるなんてことがあったりして??

職場には次第に人が増えてきた。

田村さんに返信を打つ。

『田村 颯人様

おはようございます。

次回の面接はよろしくお願い致します。

今日は行く予定です。

人事部 南川 チナツ』

うち終わると、急いで送信ボタンを押した。

なんだか周りを気にしながらこんなやりとりをしてる自分に違和感を覚えながら、なんだかなぁとしばらくぼんやりとパソコンの画面を見つめていた。

「おはよう」

そう言いながら私の正面の席にビジネスバッグをドンと置いて座ったのは、松井雄馬だった。

一気に現実に引き戻される。

「おはようございます」

松井さんは眼鏡の奥の切れ長の目で私を一瞥すると、バッグからガサガサと書類の束を取り出し、その束を私に差し出した。

「これ、面接の資料。急ぎで10部コピーよろしく」

「は、はい」

私はその書類の束を受け取ると、すぐに席を立ってコピー室へ向かった。
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