強引ドクターの蜜恋処方箋
「ん~、すごく頭がよくて誠実な人よ」

母の表情は母ではなくなっていた。

誰かを愛する一人の女性。

「頭がよくて誠実な人なんて、完璧じゃない!一体どこで出会ったの?」

「・・・病院」

ぽそりとつぶやくように言った。

「病院?って、ひょっとしてずっと通院しているS市立中央病院?」

母は恥ずかしそうに笑った。

「へ-!いつの間に。病院で出会ったって、患者さん?それとも、まさかのお医者さんだなんてことはないよね」

「そのまさかよ」

「本当にー!!」

驚きのあまり、立ち上がってしまった。

「すごい玉の輿じゃん!娘より先に結婚した上に玉の輿なんて!どういうことよ~!」

私も興奮気味に母にじゃれついた。

母の幸せそうな顔を見ていたらこちらまで笑顔になる。

「お母さんの主治医って、確か水谷先生だっけ。まさかの水谷先生とか?」

「そうなの。そのまさかの水谷正樹先生よ」

あの、水谷先生?

いつも穏やかで優しい顔で笑って母に寄り添ってくれていた。

「口があんぐりだわ」

「ふふふ。そうよねぇ。そりゃそうだわ」

母も紅茶を飲んでクッキーをつまんだ。

「だけどさ、主治医の先生とそんな風な関係になれるもんなんだ。すごいよ」

「まぁね。色々とあったけど」

「色々?水谷先生ってお母さんと同じ年くらいだよね。独身だったの?」

「それもね、色々あったの中に含まれるんだけどね」

「って、既婚者だったの?!」
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