強引ドクターの蜜恋処方箋
「水谷先生はこちらの病院は辞めてオーストラリアに行くの?」

「そう。でもオーストラリアの大学で医学についての教鞭をとることも決まっているし、医療の研究も続けられるみたいなの。無職ではないから安心して」

母は、茶目っ気たっぷりの顔で笑った。

「水谷先生と籍を入れる前に、チナツにもきちんと紹介したいと思ってる。都合はどう?」

「私も会いたい。再来週なら空いてるわ。水谷先生のご都合と合えばいいんだけど大丈夫かな?」

「わかったわ。じゃ、また水谷先生にも確認して連絡する」

「了解」

私はスケジュール帳を広げて、予定を書き込んだ。

「それで、あなたの方だけど」

「ん?」

「今いい関係の彼、結婚はさておき、一応紹介してもらいたいわ。お母さん、しばらく日本から離れるし、その彼にチナツがお世話になることもあると思うからきちんとご挨拶しておきたいの。よかったら、再来週連れてきなさいよ」

な、何を言い出すの。

「無理無理」

「何が無理なの。お相手もそれなりの年齢でそれなりのお仕事してるんでしょ?自分の親に紹介するくらいどってことないじゃない」

「でも、なんていうか、彼は日々忙しいしきっと無理だわ」

会わせられるわけないじゃない!架空の恋人。

そう言いながら、状況が状況だけに少し焦っていた。

「まぁ、無理なら無理で、とりあえず声だけかけといてよ。今回いい機会だと思うから」

「はいはい」

私は右手をひらひらさせながら軽く返事をした。

返事をしながら、額に変な汗が噴き出して「どうしよう~」と頭の中がパニックだった。
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