強引ドクターの蜜恋処方箋
その夜、母は私のためにすき焼きを用意してくれた。

二人ですき焼きをつつく。

恋する母の姿からは、長い間難病と闘っているなんてみじんも感じられなかった。

恋は、ひょっとしたらキセキを起こすのかもしれない。

うん。

きっとそうだ。

どんな治療よりも、恋の力が病気を治す特効薬なんだ。

母のキラキラした笑顔を見ながらそんなことを思っていた。


翌日、実家からの帰り道、母から彼を連れてくるように言われてたことを思い出す。

帰り際も、かなりしつこく母に言われたし。

どうしようか。

頭痛い。

バスに乗り、看護師の本を広げた。

ふと、松井さんの顔が浮かぶ。

秘密を共有する同士。

ひょっとしたら松井さんは彼氏の代わりに来てくれないだろうか?

いやいや、そんな厚かましいお願い聞いてくれるはずもないか。

でも、母のお相手はお医者さんだし松井さんも色々と話が聞けてためになるかも?

自分の都合のいいようにばかり考えてしまう。

バスに揺られながら、ゆっくりと息を吐いた。

どうしようか。

あまり時間ない。

明日、松井さんとは会うけれどそんなこと急に頼めるわけもないし。

一晩考えよう。

今日はもう疲れた。

もうすぐそこまで夕暮れが迫っていた。

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