強引ドクターの蜜恋処方箋
また慌ただしい1週間が始まった。

急遽、中途採用の面接も入ったりで残業が続く。

松井さんは、そんな忙しい中でもいつも落ち着いていて手際よく作業を進めていた。

心なしか2人でカフェに行って以来、松井さんから頼まれる仕事が増えたような気がする。

それに、時々目が合うと、秘密を共有する変な親近感からか私に微笑んでくれるようにもなった。

普段はクールで表情が読めないんだけど。

あー、それにしても母からの例の話。

少し距離が縮まった今の松井さんなら頼めるかしら。

部下のお願いってことで。

でも、きっと仕事+国家試験の勉強でそれどこじゃないよね。

仕事は山ほどあって忙しいのに、妙にそわそわしていた。

大きく息を吐いた時、広げていたパソコンがメールを受信した。

『南川チナツ様

お疲れさまです。

雄馬からも聞いたけど、人事部は今忙しそうだね。

金曜のジムは行けそうですか?

           田村 颯人』

田村さんから相変わらずのメールだ。

先週一緒に飲んだ帰り際の田村さんの熱い手の平を思い出し動揺する。

金曜のジムか・・・。

忙しい時だから体動かしたい気分だけど、田村さんと顔を合わすのは気分が重たかった・・・。

とりあえず、仕事は明日で一山越えそうだし、金曜は少し遅くなるけどジムに行けるかも。

『少し遅くなりそうですが、行こうと思ってます』と返信を打った。

いちいち田村さんに報告する義務もないんだけど、尋ねられたら無視するわけにはいかなかった。

すると、すぐに田村さんから返信が届く。

『突然の提案なんだけど、南川さんも忙しそうだし、金曜はジムは辞めて気分転換に2人でゆっくり会わないか?こないだとても楽しかったし、もっと南川さんのことを知りたい』

私のことをもっと知りたい?

胸の辺りがざわざわする。

こないだからやたら強引に誘ってくる田村さんに。

これは、口説かれてるんだろうか?まさかね。

あんな仕事も見た目もトップクラスで女性に人気の田村さんがわざわざ私に注目なんてするはずがない。

普段バリバリ仕事してる人だけに、私みたいにノー天気な人間は逆に新鮮にうつってるだけだ。

逆に意識しすぎだとみっともないような気がした。

田村さんとこないだ飲んだ時も、それなりに楽しかったし、ユカの言うように変になびかなければ問題ないかもしれない。

返信に困りながらも、一旦ジムに行くっていっちゃった以上断る勇気もなかった。

『当日、突発の仕事さえ入らなければ』と返信を打った。

思わず、誰かに見られてやしないか気になって辺りをキョロキョロ見回す。

と、バッチリ目が合ってしまった人が一人。

松井さんだった。

松井さんは、妙に真面目な顔で私をじっと見つめている。

な、何?

何か言いたげなその表情は。

まさか、私のメール見たとかそんなことないよね。

挙動不審になりながら、パソコンをゆっくりと閉じた。
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