強引ドクターの蜜恋処方箋
田村さんから、その後もメールが来ていて、
『金曜日、ロイヤルホテルのロビーで19時に』
と書かれてあった。
ほ、ホテル?
と思ったけれど、シティホテルだしきっと待ち合わせに選んだだけだと自分に言い聞かせた。
金曜日が近づくにつれどんよりとした気持ちになっていった。
そうこう慌ただしく過ごしている間に、金曜日がやってきた。
予想通り、仕事は木曜には落ち着き、金曜は十分19時に間に合って出れそうだ。
私は気持ちが重たいまま18時になったのを確認して、デスクを片づけ始めた。
すると、私の横にすっと人影が止まる。
見上げると松井さんが立っていた。
「もう帰るの?」
私にしか聞こえないような小さな声で尋ねた。
「はい。まだ何かやることありますか?」
「頼みたい仕事があるんだけど。いいかな」
時計をちらっと見ると、待ち合わせの時間を一時間切っていた。
どうしよう。
でも、上司からの仕事なら断れないよね。だけど、なんとなくホッとした気持ちになっている自分がいる。
帰る間際に仕事を頼むなんて松井さんらしくないなと思いながらも、「はい。わかりました」と答えた。
「来月中途採用されるメンバーにこの封書を送ってもらいたい。宛名間違いがないか読み合わせお願いしたいんだけど」
松井さんからの仕事はそんな急ぎではなかった。
明日の朝、私1人だってできちゃう仕事なのに。
「はい」
私はそういうと立ち上がり、松井さんに続いて会議室に入って行った。
松井さんと採用メンバーの氏名と住所を読み合わせして確認していく。
封筒に間違いなく書類を入れ、封を手際よく進めた。
全てが完了したとき、
「南川さん帰るところ引き留めて悪かった。助かったよ」
松井さんが言った。
「いいえ」
封筒を固めて揃えながら立ち上がった。
「どんなに慌てても、困った人がいたら断れない生真面目さは当時と少しも変わらないな」
松井さんが私に何を言いたいのかよくわからなかった。
「だけど、今はそんな南川さんの性格がはがゆいよ」
「?」
松井さんは椅子に座ったまま、「ふぅー」と大きく息を吐いた。
その目は、何かを思い詰めているような触れちゃいけないような目をしていた。
私は立ち上がったまま何も言えず黙ってうつむいていた。
「あと、もう一つお願いがあるんだ」
松井さんがゆっくりと私に視線を向けた。
時計に目をやると、もうこれ以上は時間的に無理だ。
田村さんと待ち合わせの時間に間に合わない。
さすがに上司を待たせるわけにはいかなかった。
「今日は・・・」
そう言い掛けた私の言葉を遮るように松井さんが言った。
「今晩空いてる?俺に君の時間をくれないか」
え?
松井さんの目はしっかりと私を捕らえていた。
目をそらせないくらいに強く熱く。
思わずその目に吸い込まれそうになる。胸の中心が熱くなる。
「はい」って言ってしまいそうになった自分の気持ちを振り切って答えた。
「ごめんなさい。今日は夜予定があって」
松井さんの目から視線を外して小さな声で言った。
「どうしても無理?」
その声に簡単に引き下がらない強い意思を感じる。
「・・・はい。すみません」
うつむいたまま答えた。
もう一度松井さんの目を見たら、断れなくなるような気がしたから。
「そっか。わかった」
松井さんはそう言うと、ゆっくりと椅子を引いて立ち上がった。
「今日は残業させて悪かったね。手伝ってくれてありがとう」
そう言うと、「おつかれさま」と声をかけて会議室から出ていった。
会議室の扉が閉まる音を聞きながら、正直心が揺らいでる自分がいた。
松井さんと2人でカフェで過ごした時間がとても穏やかで居心地がよかったから。
でもまさか松井さんからこんな風にお誘いをうけるなんて思いもしなかった。
本心は、田村さんより松井さんと一緒に過ごしたい。
胸がきゅうっと痛む。
私も立ち上がると、会議室を出て更衣室へ向かった。
『金曜日、ロイヤルホテルのロビーで19時に』
と書かれてあった。
ほ、ホテル?
と思ったけれど、シティホテルだしきっと待ち合わせに選んだだけだと自分に言い聞かせた。
金曜日が近づくにつれどんよりとした気持ちになっていった。
そうこう慌ただしく過ごしている間に、金曜日がやってきた。
予想通り、仕事は木曜には落ち着き、金曜は十分19時に間に合って出れそうだ。
私は気持ちが重たいまま18時になったのを確認して、デスクを片づけ始めた。
すると、私の横にすっと人影が止まる。
見上げると松井さんが立っていた。
「もう帰るの?」
私にしか聞こえないような小さな声で尋ねた。
「はい。まだ何かやることありますか?」
「頼みたい仕事があるんだけど。いいかな」
時計をちらっと見ると、待ち合わせの時間を一時間切っていた。
どうしよう。
でも、上司からの仕事なら断れないよね。だけど、なんとなくホッとした気持ちになっている自分がいる。
帰る間際に仕事を頼むなんて松井さんらしくないなと思いながらも、「はい。わかりました」と答えた。
「来月中途採用されるメンバーにこの封書を送ってもらいたい。宛名間違いがないか読み合わせお願いしたいんだけど」
松井さんからの仕事はそんな急ぎではなかった。
明日の朝、私1人だってできちゃう仕事なのに。
「はい」
私はそういうと立ち上がり、松井さんに続いて会議室に入って行った。
松井さんと採用メンバーの氏名と住所を読み合わせして確認していく。
封筒に間違いなく書類を入れ、封を手際よく進めた。
全てが完了したとき、
「南川さん帰るところ引き留めて悪かった。助かったよ」
松井さんが言った。
「いいえ」
封筒を固めて揃えながら立ち上がった。
「どんなに慌てても、困った人がいたら断れない生真面目さは当時と少しも変わらないな」
松井さんが私に何を言いたいのかよくわからなかった。
「だけど、今はそんな南川さんの性格がはがゆいよ」
「?」
松井さんは椅子に座ったまま、「ふぅー」と大きく息を吐いた。
その目は、何かを思い詰めているような触れちゃいけないような目をしていた。
私は立ち上がったまま何も言えず黙ってうつむいていた。
「あと、もう一つお願いがあるんだ」
松井さんがゆっくりと私に視線を向けた。
時計に目をやると、もうこれ以上は時間的に無理だ。
田村さんと待ち合わせの時間に間に合わない。
さすがに上司を待たせるわけにはいかなかった。
「今日は・・・」
そう言い掛けた私の言葉を遮るように松井さんが言った。
「今晩空いてる?俺に君の時間をくれないか」
え?
松井さんの目はしっかりと私を捕らえていた。
目をそらせないくらいに強く熱く。
思わずその目に吸い込まれそうになる。胸の中心が熱くなる。
「はい」って言ってしまいそうになった自分の気持ちを振り切って答えた。
「ごめんなさい。今日は夜予定があって」
松井さんの目から視線を外して小さな声で言った。
「どうしても無理?」
その声に簡単に引き下がらない強い意思を感じる。
「・・・はい。すみません」
うつむいたまま答えた。
もう一度松井さんの目を見たら、断れなくなるような気がしたから。
「そっか。わかった」
松井さんはそう言うと、ゆっくりと椅子を引いて立ち上がった。
「今日は残業させて悪かったね。手伝ってくれてありがとう」
そう言うと、「おつかれさま」と声をかけて会議室から出ていった。
会議室の扉が閉まる音を聞きながら、正直心が揺らいでる自分がいた。
松井さんと2人でカフェで過ごした時間がとても穏やかで居心地がよかったから。
でもまさか松井さんからこんな風にお誘いをうけるなんて思いもしなかった。
本心は、田村さんより松井さんと一緒に過ごしたい。
胸がきゅうっと痛む。
私も立ち上がると、会議室を出て更衣室へ向かった。