強引ドクターの蜜恋処方箋
「雄馬くんて、ただのイケメンじゃないのね。すごい人じゃない。」

母が私の耳元でささやいた。

そう・・・すごすぎるんだよね。

私にはもったいないくらい。

誰が見たって到底恋人同士なんてあり得ない話。

「でも、あなたたちとってもお似合いよ。雄馬くんとならチナツは幸せになれるわ、きっと」

母はお皿を布巾で拭きながら私にウィンクをした。

お似合い??

お似合いだなんて全然そんなことないのに。

でも、母が安心してオーストラリアに向かえれば今はそれでいい。

「お母さんと水谷先生もすごく素敵なカップルだわ。お母さんのあんな幸せそうな顔、初めて見たかも」

母の目を見てくすっと笑った。

「そう?ありがとう」

母の頬がほんのり赤く染まった。

よかった。母は間違いなく幸せだ。

私と離れても、水谷先生が一緒ならオーストラリアの生活は何も心配いらない。

心からそう思った。


夕方から水谷先生は病院へ戻らないといけないいというので、水谷先生と一緒に私と松井さんも実家を後にした。

母は終始嬉しそうだった。

これでよかったのかもしれない。

ついていい嘘もあるはず。そう思うようにしよう。

もしオーストラリアに発って松井さんのこと聞かれたら・・・別れたって言えばいいし。

小さなため息が一つ漏れた。

彼の運転する車に揺られている。

夕暮れの街並みが窓の外に流れていく。

「今日はありがとうございました。母も喜んでいたし、本当に助かりました」

松井さんの端正な横顔が、夕焼けのオレンジ色に縁取られていた。

「チナツのお母さんはとても素敵な人だね。水谷先生も。2人にお目にかかれて俺もよかったよ」

「そう言ってもらえたら、嬉しいです」

「だから、そんな堅苦しく話さなくていいって」

「でも、もう恋人役は終わったし」

しばらくの沈黙。

「これから少し時間ある?」

松井さんは正面を向いたまま言った。

「はい」

ドキンとしながらもその横顔に答える。

だって、私ももう少し一緒にいたかったから。

「まだぎりぎり間に合うかな」

そう言うとちらっと空を見上げ、車のスピードを上げた。


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