強引ドクターの蜜恋処方箋
定時のチャイムと同時に職場を抜け出す。

夜のビジネス街を足早に通りすぎ、駅に隣接したビルに入る。ジムはそのビルの23階にあった。

ジムの更衣室で着がえを済ませ、タオルを首からかけたままジムのフロアに向かう。

人の汗の臭い。

こき使われる機械音が響くジム内の空気は、不思議と気持ちが落ち着く。

そこに来る人々が孤独に自分と戦ってる雰囲気が好きだった。

皆が孤独だからこそ寂しくないのかもしれない。

マットの上で一人ストレッチをする。

中学の頃は、バレーボール部でばりばりの体育会系だったけど卒業してからは運動から遠のいてすっかり体が硬くなっていた。

ジムに通い始めてから体が幾分柔らかくなったような気がする。

少しずつ、以前の体を取り戻していく感覚は爽快だった。

壁に掛かった時計を見ると午後8時半を回ったところ。

もうすぐ田村さんが来る頃だ。


その時、

「お疲れさま」

頭の上で、低音の最近聞き慣れた声が響く。

額の汗をタオルでぬぐいながらサイクリングマシーンの足を緩めると顔を声の方に向けた。

引き締まった体が、フィットしたTシャツから色気を漂わせている。

長身の田村さんは微笑んで私の後ろに立っていた。



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