強引ドクターの蜜恋処方箋
母がオーストラリアに発つ3日前。
母に誘われて一緒に食事に行く約束をしていた。
私が看護師になると母に伝えたら、「じゃ、合格祝いを前倒しにしましょ」と、それ以上問いただすこともなく提案してきた。
そういう母の心遣いが、いつもありがたい。
母と二人で外食するのは何年ぶりだろう。
待ち合わせは、何が特別なことがある度に母と二人で訪れていたイタリアンレストラン。
仕事を終えて慌ててお店に向かった。
お店につくと、既に母は席についていて、私を見つけるなり、笑顔で大きく手を振った。
「ごめん、遅くなって」
「いいのいいの。私も今来たところだから」
母は、運ばれてきたワイングラスを持って、
「お仕事お疲れさま。それから、新しいチナツの出発に乾杯!」
と言うと、私のグラスに自分のグラスを軽く当てた。
「ありがとう」
ワインを口に含んだ。
少し甘めのワインは、喉を通って、私のお腹を温かく包んだ。
「体調はどう?」
私はグラスをテーブルに置いて尋ねた。
「うん、大丈夫よ。それよりオーストラリアの準備で忙しくて」
「そうだね。3日後だっけ?何だか信じられないわ」
「お母さんもよ。あっという間ねぇ。日本から出たこともないのに、私どうなっちゃうのかしら?」
この期に及んで、母は少しナーバスになってるようだった。
「先生がいるから大丈夫よ」
「そうね。大丈夫ね」
母は自分に言い聞かせるように言った。
「チナツ、看護師目指すって言ってたけど、もうその準備はできてるの?」
「うん、専門学校への願書もこないだ出してきた」
「これから勉強して資格とろうなんて、大したもんだわ。ま、若いからなせる技ね」
「そんな若くもないけどね」
そう言いながら、サーモンのマリネを口に頬ばる。
「あなたはまだまだこれからよ」
母はそんな私を優しい眼差しで見つめていた。
「何かを始めるのに年齢なんか関係ないわ。チナツならきっとやれる」
「うん」
母の私を思いやる言葉に涙が出そうになる。
思わず視線を落としてワインに手を伸ばした。
「ところで、雄馬くんは元気?」
突然母は言った。
じっと私を見つめる母の目に少し動揺しながらワインを飲む。
「・・・元気だよ」
母もワインを一口飲んだ。
そして、一呼吸置いて言った。
「お母さんと水谷先生に雄馬くんを紹介してくれた日、本当はまだちゃんとお付き合いしてなかったんじゃない?」
「え?」
パスタに伸ばしていた手を思わず止めて、顔を上げた。
「ばれてないと思ってた?」
「それは・・・」
不意を付いた直球に、どう返せばいいのか言葉に詰まる。
「雄馬くんを自分の彼氏ってわざわざ嘘をついてまで紹介したのには、きっと理由があるんだとは思ったけど、お母さんはそんな易々とだまされる人間じゃないわよ。だって、あなたの母親なんだから」
「いつからばれてたの?」
「最初からよ。玄関に入ってきた二人はあまりにも互いに緊張してぎこちないんですもの」
松井さんは完璧にやり通してくれたと思っていたけれど、やっぱり母にはかなわない。
大きく息を吐いて、母の方を見て笑った。
母に誘われて一緒に食事に行く約束をしていた。
私が看護師になると母に伝えたら、「じゃ、合格祝いを前倒しにしましょ」と、それ以上問いただすこともなく提案してきた。
そういう母の心遣いが、いつもありがたい。
母と二人で外食するのは何年ぶりだろう。
待ち合わせは、何が特別なことがある度に母と二人で訪れていたイタリアンレストラン。
仕事を終えて慌ててお店に向かった。
お店につくと、既に母は席についていて、私を見つけるなり、笑顔で大きく手を振った。
「ごめん、遅くなって」
「いいのいいの。私も今来たところだから」
母は、運ばれてきたワイングラスを持って、
「お仕事お疲れさま。それから、新しいチナツの出発に乾杯!」
と言うと、私のグラスに自分のグラスを軽く当てた。
「ありがとう」
ワインを口に含んだ。
少し甘めのワインは、喉を通って、私のお腹を温かく包んだ。
「体調はどう?」
私はグラスをテーブルに置いて尋ねた。
「うん、大丈夫よ。それよりオーストラリアの準備で忙しくて」
「そうだね。3日後だっけ?何だか信じられないわ」
「お母さんもよ。あっという間ねぇ。日本から出たこともないのに、私どうなっちゃうのかしら?」
この期に及んで、母は少しナーバスになってるようだった。
「先生がいるから大丈夫よ」
「そうね。大丈夫ね」
母は自分に言い聞かせるように言った。
「チナツ、看護師目指すって言ってたけど、もうその準備はできてるの?」
「うん、専門学校への願書もこないだ出してきた」
「これから勉強して資格とろうなんて、大したもんだわ。ま、若いからなせる技ね」
「そんな若くもないけどね」
そう言いながら、サーモンのマリネを口に頬ばる。
「あなたはまだまだこれからよ」
母はそんな私を優しい眼差しで見つめていた。
「何かを始めるのに年齢なんか関係ないわ。チナツならきっとやれる」
「うん」
母の私を思いやる言葉に涙が出そうになる。
思わず視線を落としてワインに手を伸ばした。
「ところで、雄馬くんは元気?」
突然母は言った。
じっと私を見つめる母の目に少し動揺しながらワインを飲む。
「・・・元気だよ」
母もワインを一口飲んだ。
そして、一呼吸置いて言った。
「お母さんと水谷先生に雄馬くんを紹介してくれた日、本当はまだちゃんとお付き合いしてなかったんじゃない?」
「え?」
パスタに伸ばしていた手を思わず止めて、顔を上げた。
「ばれてないと思ってた?」
「それは・・・」
不意を付いた直球に、どう返せばいいのか言葉に詰まる。
「雄馬くんを自分の彼氏ってわざわざ嘘をついてまで紹介したのには、きっと理由があるんだとは思ったけど、お母さんはそんな易々とだまされる人間じゃないわよ。だって、あなたの母親なんだから」
「いつからばれてたの?」
「最初からよ。玄関に入ってきた二人はあまりにも互いに緊張してぎこちないんですもの」
松井さんは完璧にやり通してくれたと思っていたけれど、やっぱり母にはかなわない。
大きく息を吐いて、母の方を見て笑った。