強引ドクターの蜜恋処方箋
「ごめんなさい」

そう言うと、母は明るく笑った。

「いいのよ。きっとお母さんがオーストラリアに発つ前にっていうチナツの優しさだっていうのもわかってたし。それにしても、よくあんな素敵な男性が恋人役引き受けてくれたものね。それだけでもチナツは大したもんだわ」

「何言ってるの」

私は笑った。

「で、今はどうなの?まだお付き合いはしてないの?あの日、雄馬くんがあなたを見てる目にとても愛情を感じちゃったんだけど」

母はこちらの方が恥ずかしくなるようなキラキラした眼で私を見つめた。

「お付き合いはまだしてないわ」

心の中でため息をついた。

「雄馬くんはチナツに何も言ってこない?雄馬くんだったらお母さん安心してあなたを任せられるんだけどなぁ。まさか、チナツが返事を渋ってるなんてことはないでしょうね?」

母が身を乗り出して私の顔をのぞき込んだ。

まさに、その通り。

「チナツの悪い癖が出て来たみたいね。いつもここっていう時に自信がなくなって出遅れちゃう。あんな素敵な男性、ほっといたらすぐに他の女性にもってかれちゃうわよ」

松井さんが私の知らない誰かの肩を抱いている姿が頭をよぎった。

そして、優しくその女性に微笑んで、ぎゅっと胸に抱き寄せて・・・。

嫌だ。

そんな想像しただけで胸の奥がズキズキと息苦しくなるように痛んだ。

「チナツ、今想像の中で焼き餅妬いてるでしょ」

母はパスタを口に入れながら試すような視線を向けた。

「べ、別に」

「好きだったらそれでいいじゃない。後先のことなんてどうでもいいわ」

私はワイングラスをかたむけて、残りのワインを飲み干した。

「だって雄馬さんみたいなすごい人、私なんかとは全く不釣り合い。きっと付き合ったってすぐに嫌気さされちゃうわ」

空になったワイングラスを見つめながらつぶやいた。

「不釣り合いでもなんでも、お互い好きなら構わないじゃない。嫌気さされたらその時考えればいい。今どうこう悩むことじゃないわ」

母は私の手をそっと握った。

「チナツ、最近とてもきれいになった。いい恋してるんだと思う。雄馬くんに思い切って自分を預けてみたら?」

母は優しく微笑んだ。

松井さんに私を預ける?

そんなことできる?

「チナツは最高のレディよ。もっと自信もって!なんてたってお母さんの血が流れてるんだから」

母は大きな声で笑いながら私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。

「看護師さんを目指すことも、雄馬くんとの恋愛もどちらもうまくいくよう応援してるわ」

そう言うと、私の空になったワイングラスにワインになみなみと注いでくれた。

「私もお母さんの病気と、水谷先生との結婚生活、うまくいくよう応援してる」

「あはは、その二つ並べるのはどうかと思うけどぉ。でも、両方オーストラリアでがんばるわ。だから、チナツもね!」

私は母に頷いて笑った。




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