強引ドクターの蜜恋処方箋
月明かりに輪郭を縁取られている松井さんの表情はとても穏やかだった。

「チナツのそういうとこも好きだよ」

彼の目の奥に夜景の光が映り込んで瞬いている。

自分とこんなにも正面から向き合ってくれる松井さんにはちゃんと自分の気持ち伝えなくちゃ。

ぎゅっと手を握り締めた。

「・・・あの」

心臓が痛いほどにドキドキしていた。

「私・・・本当に、私でいいんですか?」

松井さんの顔をゆっくりと見上げた。

「もちろん。チナツじゃなきゃだめなんだ」

「こんな何の取り柄もな・・・」

言い終わらないうちにその胸の中に抱きしめられていた。

「それがチナツの答えって前向きに受け止めていいのかな」

私はゆっくりと頷いた。

「ありがとう」

松井さんは更に強く抱きしめた。

「一緒に2月の試験受かるぞ」

「はい」

私は松井さんの背中に自分の腕を回した。

大きくて熱い背中。

くっついてるだけでこんなにも気持ちが安らいでいく。

母はオーストラリアに行ってしまったけれど、自分がしっかりと立っていられるのは彼がそばにいてくれたおかげ。

そんなことは恥ずかしくて言えないけど、その気持ちを込めてその背中をもっと強く抱いた。

「愛してるよ。チナツ」

松井さんは私の顎をくっと上げると、唇を優しく塞いだ。

甘くてとろけるような長いキスだった。

「片時もチナツと離れたくない」

そう言うと、ぎゅっと抱きしめ私の耳に唇をつけたままささやいた。

「ここで一緒に暮らさないか?」

「え?!」

あまりに突然な提案に驚く。

ここで暮らすって、それは同棲ってことですか??

『いっちゃえいっちゃえ!』っていうマリの声が聞こえたような気がした。

嘘でしょ。

そんなことできる??

同棲なんてしたことないし。

しかも付き合うって決めたその日なのに!

「本気で言ってますか?」

「本気だよ」

「だけど、大事な試験もあるし。雄馬さんも私も勉強しなくちゃ」

「勉強はもちろんするさ。俺はほとんど朝から晩まで大学で勉強するつもりだから、この部屋はチナツが好きに使ってくれていい」

松井さんは私の前髪を掻き上げて、おでこにキスをした。

「合格するまではキスまでで我慢する。だからいつも俺が会いたい時に会える場所にいてほしい」

熱く潤んだ瞳でそんなこと言われたら・・・。

体中がどくんどくん脈打っていた。

私も一緒にいたい。一瞬だって離れたくない。

「・・・ここにいさせて下さい」

気がついたら松井さんの視線と言葉に体中がとろけそうになりながら答えていた。

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