強引ドクターの蜜恋処方箋
雄馬さんが退職した翌週から、私は彼と同じ部屋で暮らしている。

予告通り、雄馬さんは朝から夜遅くまで大学の図書室で勉強。

私は朝から夕方まで仕事に出て、帰ってきてから勉強する毎日を送っていた。

働きながら勉強なんてできるかしらと思っていたけれど、時間がない分、逆に集中して取り組めている。

雄馬さんの部屋はとても居心地よかったし。

疲れたら最高の夜景を見にベランダに出た。

だけど雄馬さんと顔を合わせるのは一日のうちほんの僅かの時間。

その僅かの時間だけが唯一の私の励み。

「ただいま」

雄馬さんは毎晩夜遅くに帰って来る。

夜ご飯も私が大変だろうからと言って、外で食べて来てくれた。

「チナツ」

玄関で私を呼ぶ声がする。

「おかえりなさい」

廊下を走り抜け雄馬さんを玄関まで出迎えに行った。

雄馬さんは私の肩を抱き、瞼と唇に軽くキスをする。

くすぐったいキスに思わず笑ってしまう。

その後、2人並んでソファーに腰掛けて缶ビールで乾杯する。

その一本を飲み終わるまでの間に、今日あった事をお互い報告しあった。

1時間もないくらいのささやかな時間だったけど、毎晩それだけが唯一の楽しみ。

それにしても、雄馬さんの勉強量と集中力は計り知れない。

最近寝不足じゃないかと思うけど、私には疲れた顔は一切見せなかった。

「医者になったらこんなもんじゃないからね。今からそのハードな生活に慣れとかないと」

そう言って笑っていた。

そうなんだ。

っていうことは、お医者さんになった後もあまり会えないのかもしれない。

そう思ったらふと寂しくなる。

私の頭に雄馬さんの手がそっと置かれた。

「どうした?急に静かになったけど」

「うううん、何でもないです」

「いいから言ってみろって」

雄馬さんは自分の肩に私の頭を抱き寄せた。

「雄馬さんが国家試験に合格してお医者様になったとしても、まだあまり2人でゆっくり会えない生活が続くのかって思ったの」

「それは寂しいってことか?」

試すような表情で私の顔をのぞき込んだ。

「意地悪・・・」

そんな雄馬さんの目から顔を背けると、覆い被さるように背後から抱きしめられる。

「もちろん今より早く帰れる日はチナツと一緒にご飯食べたい。休みが取れるなら、2人でドライブにも行きたいさ」

雄馬さんの唇が私の首筋をなぞった。
 
その甘い感覚に思わず目をつむる。

「合格するまでは俺も色んなこと我慢する。だけど合格したらもっとチナツとの時間を増やせるよう努力するから。どんなに忙しくてもチナツの存在は俺にとって一番だから」

そう言うと私の顔を後ろに向けて唇にそっとキスをした。

「もう少し待ってて」

「うん」

雄馬さんの目を見つめながら心の中で「大好き」と何度も呟いた。







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