強引ドクターの蜜恋処方箋
そんなささやかな雄馬さんの愛を感じながら、試験の日は刻々と近づいていた。

年末に差し掛かり、仕事がピークになる。

残業が続き思うように勉強がはかどらないことに、気持ちだけが焦って知らず知らずのうちにイライラしている自分がいる。



いつものように残業を終えてコンビニでお弁当を買って帰ってきたそんなある日。

お弁当を食べる前にレンジで温めようとキッチンに入ると、カウンターに白い紙切れが置いてあるのが見えた。

ん?

何かのメモ書き?

レンジにお弁当を入れてセットすると、その紙切れを手にした。

『チナツへ』

それは雄馬さんから私宛の手紙だった。

最近、雄馬さんの帰りを待たずに疲れて寝てしまうことがよくあった。

昨晩もそうだったと思い出す。

『帰ったら電話して  雄馬』

レンジの「チン!」という音を聞きながら雄馬さんに電話をかけていた。

『はい、チナツ?』

スマホの向こうに大好きな雄馬の声が響く。

「雄馬さん、お疲れさまです。今帰ってきたの」

『遅くまでご苦労様。最近仕事が立て込んでいるようだけど大丈夫か?』

そんな風に言ってもらえるだけで、疲れている体がほぐされていく。

「いつも雄馬さんの顔を見ないまま寝ちゃってごめんなさい。年末まであともう一踏ん張りだからがんばらないとね」

『そうか。無理すんなよ』

雄馬さんの声の後ろには穏やかな音楽が流れている。

どこかにいるのかな?大学ではなさそうだった。

『今日は何の日か忘れてるだろ』

雄馬が少し笑いながら言った。

「え?今日は・・・」

カレンダーに目をやる。

あ、今日はクリスマスだったんだ。

カレンダーをゆっくり見る時間もないまま過ごしていた自分がつくづく嫌になる。

「クリスマスなんですね。すっかり忘れてました」

『いいさ。実は俺も今朝気付いたんだ。もし、チナツが大丈夫なら今から出てこない?俺今近所のカフェに来てるんだ。たまには外で飲むのもいいんじゃないかと思ってね』

ふわっと胸の辺りが温かくなる。

勉強も大詰めのはずなのに、疲れている私を気遣ってそう言ってくれている気持ちが純粋に嬉しかった。

「すぐ行きます」

『待ってる』

私はレンジの中にお弁当を残したまま、コートを羽織り玄関を飛びだした。







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