強引ドクターの蜜恋処方箋
駅前のカフェの周りは、クリスマスということもあってかいつもよりたくさんの人で賑わっていた。

街中がツリーのようにイルミネーションで華やいでいるのに、会社と家の往復で、こんな街のきらびやかな変化にも気付いていない自分が情けない。

人の波をかき分けながら、雄馬さんのいるカフェに急いだ。

このカフェは最近できた、大人向けのおしゃれなカフェだ。

カウンター式のテーブルがあり、夜はお酒も飲めるバーのような雰囲気になっていた。

「チナツ」

店内に入ると、カウンターの一席から雄馬さんが私を呼んだ。

雄馬さんの前には問題集が広げてあった。

私が席につくとすぐにその問題集を閉じて持って来ていたリュックになおす。

勉強も大事なのに、ここに私を連れ出そうと私の帰りをずっと待っててくれたんだ。

それだけで嬉しくて胸が震えた。

「ここはカフェだけど夜はバーになるらしい。カクテルの種類も多いよ」

雄馬さんと私は、カクテルメニューを見ながら初めて見る名前のカクテルをそれぞれ頼んだ。

2人とも晩御飯もまだだったから、パスタとピザを追加で注文して取り分けて食べた。

「おいしい」

「ああ。このカフェ出来た時からずっと気になってたんだ。今日チナツと来れてよかったよ」

雄馬さんはピザにかぶりついた。

「仕事はどう?今がピークってとこか?」

「先週までがピークでした。ようやく少し落ち着いてきた感じかな」

「そうか、ならよかった」

そう言うと、雄馬は残りのピザを口の中に放り込んだ。

「2月まであと少しだな」

「はい」

と言いながら、あまり勉強ははかどってないことにまた気持ちがブルーになる。

雄馬さんはカクテルを飲みながら、そんな私に視線を向けた。

「どうした?」

「最近残業続きで思うように勉強できてないなって」

「そうか。チナツは仕事しながら勉強してるんだもんな。それだけでも俺尊敬するよ」

わざと明るく言いながら、私の手にそっと自分の手を重ねた。

温かくて大きな手の平が私の心細い手を包む。

「仕事はいつまで続けるの?」

「試験に受かったら辞表を出そうかと思ってます。まだ受験することも社内の誰にも言ってない状況だから」

「チナツがしんどくないならそうすればいい。でも、少しでも仕事との両立がしんどいなら無理だけはするなよ」

だけど、もし受からなかったら私、宙ぶらりんになっちゃうもの。

これ以上、雄馬さんにおんぶに抱っこは申し訳ないような気がしていた。

そんな私の気持ちを察したかのように、私の肩にポンと手を置くと、

「今回何があっても2人揃って合格しなくちゃな。あともう一踏ん張りだ。辛い時はいつでも俺に愚痴れよ」

と言って残りのカクテルを一気に飲み干した。

そうだね。

いつも支えてくれる雄馬さんがそばにいてくれる。

2月に受かることだけを目標にしてがんばらなくちゃ。

突然、雄馬さんの顔が私の耳元に近づいた。

「合格しなきゃ、2月以降もチナツとキス止まりなんて俺我慢の限界だから」

ささやくように言われたその言葉に一気に顔が熱くなる。

雄馬さんは私の赤くなった顔をいたずらっぽくのぞき込んだ。

「もう!」

と言いながら、私は雄馬さんの腕を掴んで笑った。

こんなふざけたこと言いながら私の緊張や不安をいつもほぐしてくれてる。

最近のイライラしていた気持ちはいつの間にかどこかに行ってしまっていた。

2人で手を繋いだままカフェを後にする。

もう夜も遅いのに、まだ外は人で賑わっていた。















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