強引ドクターの蜜恋処方箋
それから2ヶ月ほど経ち、1週間の臨地実習が入った。

雄馬さんの病院の近くに位置する看護学校なので、実習もT大学病院だった。

雄馬さんと同じ場所で実習ができることが素直に嬉しい。

お互い忙しくて顔を合わせることができないかもしれないけれど、同じ場所にいられるだけでも十分だった。

私が配置されたのは小児科病棟。

偶然にも雄馬さんが現在配属されているのが小児科だった。

でもお互い忙しくてなかなか顔を合わす機会は訪れない。

ナースセンターで翌日の計画表を書いていたら、先輩看護師達の話し声が聞こえてきた。

「ほら、研修医の松井雄馬先生って素敵だよね」

「そうそう、仕事覚えるのも早いし。噂によるとサラリーマンあがりなんていう珍しい経歴らしいよ」

「さすが名誉教授、松井雄蔵の息子って感じ。」

「こないだ、松井先生が通りすがりににこって笑って挨拶してくれて、年甲斐もなくドキドキしちゃった!」

そんな彼の話で盛り上がっていた。

こういう話題聞くのも、実習初日だというのに何回目だろう。

あれだけ容姿端麗で、有能な雄馬が目立たないはずはなかった。

わかってはいたけど、そういう話題が耳に流れてくる度に、雄馬さんがとても遠い存在に感じてしまう。

「ほらほらおしゃべりはそのくらいにして、501号室に入院してる森さんのカルテお願い」

そう言って白衣を翻して入ってきたのは、とても美しい女医さんだった。

「はい、森さんのカルテです。峰岸先生」

慌てて年配の看護師がカルテを取り出して先生に手渡した。

峰岸先生っていうんだ。

肩までのふわふわの髪を後ろにきゅっと束ねて、肌は透き通るように白かった。

きりっとした眉と大きな目。

こんなきれいな先生がいるんだ。

思わずその凛々しい横顔に見とれていたら、峰岸先生と目が合った。

「あら、新しく入った看護師さん?」

峰岸先生はきりっとした表情のまま私に尋ねた。

そうだよね。

この年齢でまさか看護学校の生徒なんて思うはずもない。

「いいえ、こんな年齢ですけど看護学校の生徒で、今実習でお世話になっています。南川です。よろしくお願いします」

私はそういうとペコリと頭を下げた。

「そうなんだ。南川さんね、こちらこそよろしく。ここは色々と大変だけど1週間がんばって」

峰岸先生はにこっと笑うと、颯爽と部屋を後にした。

私の横にいた看護師が、「峰岸先生よ。きれいな先生でしょ?女性だけど、世界でも指折りの有名な小児科医なの」とこそっと教えてくれた。

そうなんだ。

ますます格好いい。

年齢は、私より少し上くらいかしら。

憧れちゃうな。

私なんかまだまだだ。





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