強引ドクターの蜜恋処方箋
その声の主は峰岸先生だった。

疲れを微塵も見せない美しい姿で、廊下の向こうからこちらに向かって手招きしていた。

「雄馬、こないだの病理検査の結果出たから今からちょっと時間ある?」

「もう結果出たんだ。了解、すぐ行く」

雄馬さんは峰岸先生にそう返事をすると、私の方に顔を向けた。

「待っていた検査結果が出たみたいだから今から行ってくる。遅くなるかもしれないけど帰る前に電話入れるよ」

そう言うと、白衣を閃かせながら峰岸先生の方へ走って行った。

峰岸先生は雄馬さんの腕を軽く押して、親しげに笑いながら何か話していた。

雄馬さんもそんな峰岸先生に頷きながら微笑む。

そして2人は廊下の向こうに談笑しながら消えていった。

なんだろう。この胸がつっかえた感じ。

二人はとても仲良さそうだった。

峰岸先生は、びっくりするくらい慣れた口調で「雄馬」って呼び捨てで呼んでいた。

それに。

認めたくないけど、並んだ2人は美男美女でとてもお似合い。

ふぅ。

さっき雄馬さんが触れた唇をそっと手で押さえる。

その熱くて柔らかい唇の感触はすっかり冷たくなっていた。

仕事なんだからしょうがないよね。

峰岸先生と一緒に仕事してるだけ。

・・・だけど。

またため息が勝手に漏れた。

せっかく明日からがんばれそうって思ったのに。

こんなことで凹んでどうする??

どってことないって。

雄馬さんは、私のこといつもあんなに愛してくれるじゃない?

気持ち切り替えなくちゃ。

自分のおでこをコツンとゲンコツで軽く叩くと、裏口の扉を開けて外に出た。

見上げると丸い月の周りがぼんやり霞んでいる。

明日は雨かな。

私はゆっくりと家路に向かって歩き出した。



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