強引ドクターの蜜恋処方箋
翌朝、ナースセンターに入ると、すぐに1人の先輩看護師に呼ばれた。

「おはようございます」

慌てて自分の計画表を持って先輩の方へ向かった。

「南川さんて、松井先生とお知り合いなの?」

私が到着するなり無表情でそんなことを言われて動揺する。

突然、なんだろ。

どう答えればいい?

戸惑っていると、先輩が続けた。

「いくら知り合いだからって、特別扱いはしないから。あなたは今は学生の分際。先生と親しげに話すなんてまだまだ早いわ」

とてもトゲのある言い方だった。

昨晩、帰り際に2人で話してたところを見られてたんだろうか。それしか考えられなかった。

血の気が引くような思いで、とりあえず「はい。すみません」と言って頭を下げた。

「あとね、今日のお昼の患者さんへの配膳なんだけど、」

先輩は、私の計画表を私の手からすっと取り上げ、それに目をやりながら続けた。

「お昼の時間、他の看護師達が皆急ぎの業務が溜まってて身動きとれなくなったの。だから、申し訳ないけれど南川さんに1人で配膳やってもらわなくちゃならなくないわ。よろしくね」

「・・・え?」

よろしくねって、どういうこと?

昨日の引き継ぎでは、私が担当するフロアの入院患者は現在20名いるので、お昼の配膳は私を含め3人の看護師で手分けしてやるって聞いていたのに。

しかも、私はまだ一回しか配膳の経験がない。

無茶苦茶な指示なのは誰が聞いたって明らかだった。

一人で時間内に配膳終わるんだろうか?昼食の後は先生の回診も控えてるのに。

胸が不安で締め付けられる。

それでなくても、今日から責任を負う仕事が一気に増えたというのに。

「大丈夫?顔が青いけど」

先輩は私の顔をちらっと一瞥しながら言った。

「私も新人の頃はそんなことよくあったわ。それに、南川さんはサラリーマン経験もあるし、他の学生よりも人生経験も豊富なんだから、何とか機転効かせてできるでしょ?」

先輩の口元は意地悪な笑みを浮かべていた。

そりゃ、私は他の学生達とは違って年くってるわよ。

だけど、それが慣れない配膳を完璧にできるかということは別問題だわ。

先輩の理不尽な指示の仕方にお腹の中でふつふつとしたものがこみ上げてくる。

ゆっくりと深呼吸した。

ここで怒りを露わにしたら自分が負けだということは、これまでの経験でよくわかっていた。

そういう意味では人生経験豊富ってのは確かに役に立ってるけど。

先輩の方に向き直り、にっこり笑って言った。

「はい、がんばります」

先輩はその笑顔に怯んだ気配を見せると、「お願いね」とすぐに私から目を逸らした。

くるっと先輩に背を向けて自分のデスクに戻りながら、「あー!どうしよう!」と心の中で叫んでいた。

朝から患者さんの検診に回りながら、お昼の配膳のことで頭がいっぱいだった。

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