強引ドクターの蜜恋処方箋
7章
実習の日々は瞬く間に流れていった。
ようやく慣れてきた頃に、残すところ日曜の休日を挟んであと一日となった。
長かったような短かったような。
でも、雄馬さんに支えられた1週間だったことは間違いなかった。
あんな事があったからか、時々忙しい中ナースセンターに顔を出して私の様子を見にきてくれた。
敢えて親しくはしてこなかったけれど、目が合う度に優しく微笑んで頷いてくれた。
その微笑みにどれだか救われたかしれない。
日曜を前に、先に家に帰っていた私に雄馬さんから電話があった。
その声はいつになく弾んでいるような気がした。
「明日の日曜日、研修医始まって以来、珍しくまる一日休みが取れたんだ。この間お弁当作ってくれただろ?そのお礼もしたいし出かけないか?」
2人で一緒に行きたい場所があるという。
何処に行くかは内緒らしい。
まる一日一緒に過ごせることに胸が熱くなっていた。
だって、そんなこと初めてだったから。
その日、雄馬さんは朝から私を車で連れ出した。
久しぶりだ。二人きりのドライブ。
いつも病院で人気者の雄馬さんを独り占めできる時間。
車の窓は開け放したまま、初夏の香りが車内に入って気持ちいい。
すぐに高速に乗り、都心から遠ざかっていく。
外の空気の色が変わるのがわかる。
「どこへ行くんですか?」
「チナツと一緒に手をつないで歩きたい場所」
「それが何処なんですか?全然わからないんですけど」
私は笑いながら彼の横顔を見つめると、眼鏡の奥から雄馬さんの目が優しく私を見つめ返した。
もっと遠くに行きたい。すぐに戻ってこれないくらいに遠くまで・・・。
高速に乗り車は更にスピードを上げた。いくつかのトンネルをくぐり抜けていく。
随分と北上している?
そう思っていたら、急に海が見えてきた。
高速を下りると、海岸線が続く道。
お天気もよく海がキラキラと眩しく揺れている。
しばらく走った海岸線の先に雄馬は車を停めた。
道路から砂浜に続く階段を降りていく。
砂浜は柔らかくて、思わず体がよろけた。
「よろけると思った」
雄馬さんはさっと私の手を取ると、
「この海辺をチナツと手をつないで歩きたかったんだ。嫌でも俺を頼らなきゃなんないくらい足下おぼつかないだろ?」
と笑いながら私の手を強く握り締めた。
忙しくてなかなかゆっくり会えない2人。
いつもこんなにそばにいるのに、2人でこうして外でゆっくりデートするのはまだ数えるほどしかなかった。
そんな生活は切なくて寂しいけれど、こうしてたまにデートするのは新鮮で未だにドキドキする自分がいる。
きっとまだ私は雄馬さんの全てを知らない。
そして、雄馬さんもまた私の全てを知らないんだろう・・・。
一緒に暮らし始めてもう半年経つのに、手をつなぐだけでこんなにも幸せな気持ちになれるなんて、雄馬さんとでないと感じられないだろうと思う。
私の手を柔らかく包んでいるその大きな手はいつもとても優しかった。
「雄馬さんのお父様は相当な有名人なんですってね。こないだテレビに出てたって先輩が言ってました」
「まあね」
雄馬は興味なさそうに海に視線を移して答えた。
「お父様も雄馬さんがお医者を再び目指すことになって喜んでらっしゃるんじゃないですか?」
「まぁ、もともとそれが親父の思惑だったから。医師を目指すのにその点だけが俺にとってはシャクなんだけどさ」
「そんな風に悪く言っちゃダメですよ。私にとったら父親って存在がそばにいるだけで羨ましいんですから。もっと大事にすれば、きっとこれからも雄馬さんの支えになってくれるはずですよ」
「俺の支えはチナツで十分。ま、チナツの言うように、あんな親父だけど感謝は多少なりともしてるさ。俺があの病院にいられるのも親父の存在ありきだからね」
雄馬は肩をすくめて微笑んだ。
「いよいよ実習も終わるな」
「そうですね。看護師までの道のりはそんな簡単ではないって感じた実習でしたけど、とても勉強になりました」
「きっと辛い思いもいっぱいしたはずだろうけど、いつも一生懸命に前向きに向き合うチナツが俺は好きだよ」
そう言いながら、雄馬さんは手をほどき私の肩を抱いた。
「でも、チナツなら大丈夫だ。どんな困難も今まで乗り越えてきてる。それに、」
雄馬さんは、私を穏やかな目で見つめながら続けた。
「どんなことがあっても俺が守るから」
顔が熱い。こんな風に自分の気持ちに寄り添ってくれる男性は初めてだった。
それに、未だにそばにいたらドキドキしておかしくなるくらい素敵な人なんだもん。
その眼差しも声も、言葉も、切れ長の目も口も。
私は愛してもらうばかりで、雄馬さんのために何かしてあげられてるんだろうか?
ふっと、峰岸先生の顔がよぎった。
どうして雄馬さんは、私なんかを選んだんだろう?
突然波間から吹き上げた潮風がふわっと私の髪を持ち上げる。
と同時に雄馬さんの手が海の方へ私を引っ張って行った。
「ち、ちょっと!」
慌てて砂浜の方へ引き返そうとするも、雄馬さんと私の靴は既に濡れていた。
雄馬さんはいたずらな表情を浮かべて、海水を私にかけてくる。
「きゃー、やめて下さい!」
両手を顔の前にかざしながら、その海水から逃げるように走った。
私の髪や腕、そしてお腹の辺りまで雄馬のかけてくる海水で濡れていた。
「もう!」
えい!ここまで濡れたら一緒だわ。
私も笑いながら、雄馬さんに海水をかけ始めた。
雄馬さんはそんな私から素早く器用に逃げた。
そういえば、学生時代はサッカーやってて俊足だったのよね。
追いかけて私が追いつくはずもないのに、必死に笑いながら逃げる雄馬さんを追いかけた。
ようやく慣れてきた頃に、残すところ日曜の休日を挟んであと一日となった。
長かったような短かったような。
でも、雄馬さんに支えられた1週間だったことは間違いなかった。
あんな事があったからか、時々忙しい中ナースセンターに顔を出して私の様子を見にきてくれた。
敢えて親しくはしてこなかったけれど、目が合う度に優しく微笑んで頷いてくれた。
その微笑みにどれだか救われたかしれない。
日曜を前に、先に家に帰っていた私に雄馬さんから電話があった。
その声はいつになく弾んでいるような気がした。
「明日の日曜日、研修医始まって以来、珍しくまる一日休みが取れたんだ。この間お弁当作ってくれただろ?そのお礼もしたいし出かけないか?」
2人で一緒に行きたい場所があるという。
何処に行くかは内緒らしい。
まる一日一緒に過ごせることに胸が熱くなっていた。
だって、そんなこと初めてだったから。
その日、雄馬さんは朝から私を車で連れ出した。
久しぶりだ。二人きりのドライブ。
いつも病院で人気者の雄馬さんを独り占めできる時間。
車の窓は開け放したまま、初夏の香りが車内に入って気持ちいい。
すぐに高速に乗り、都心から遠ざかっていく。
外の空気の色が変わるのがわかる。
「どこへ行くんですか?」
「チナツと一緒に手をつないで歩きたい場所」
「それが何処なんですか?全然わからないんですけど」
私は笑いながら彼の横顔を見つめると、眼鏡の奥から雄馬さんの目が優しく私を見つめ返した。
もっと遠くに行きたい。すぐに戻ってこれないくらいに遠くまで・・・。
高速に乗り車は更にスピードを上げた。いくつかのトンネルをくぐり抜けていく。
随分と北上している?
そう思っていたら、急に海が見えてきた。
高速を下りると、海岸線が続く道。
お天気もよく海がキラキラと眩しく揺れている。
しばらく走った海岸線の先に雄馬は車を停めた。
道路から砂浜に続く階段を降りていく。
砂浜は柔らかくて、思わず体がよろけた。
「よろけると思った」
雄馬さんはさっと私の手を取ると、
「この海辺をチナツと手をつないで歩きたかったんだ。嫌でも俺を頼らなきゃなんないくらい足下おぼつかないだろ?」
と笑いながら私の手を強く握り締めた。
忙しくてなかなかゆっくり会えない2人。
いつもこんなにそばにいるのに、2人でこうして外でゆっくりデートするのはまだ数えるほどしかなかった。
そんな生活は切なくて寂しいけれど、こうしてたまにデートするのは新鮮で未だにドキドキする自分がいる。
きっとまだ私は雄馬さんの全てを知らない。
そして、雄馬さんもまた私の全てを知らないんだろう・・・。
一緒に暮らし始めてもう半年経つのに、手をつなぐだけでこんなにも幸せな気持ちになれるなんて、雄馬さんとでないと感じられないだろうと思う。
私の手を柔らかく包んでいるその大きな手はいつもとても優しかった。
「雄馬さんのお父様は相当な有名人なんですってね。こないだテレビに出てたって先輩が言ってました」
「まあね」
雄馬は興味なさそうに海に視線を移して答えた。
「お父様も雄馬さんがお医者を再び目指すことになって喜んでらっしゃるんじゃないですか?」
「まぁ、もともとそれが親父の思惑だったから。医師を目指すのにその点だけが俺にとってはシャクなんだけどさ」
「そんな風に悪く言っちゃダメですよ。私にとったら父親って存在がそばにいるだけで羨ましいんですから。もっと大事にすれば、きっとこれからも雄馬さんの支えになってくれるはずですよ」
「俺の支えはチナツで十分。ま、チナツの言うように、あんな親父だけど感謝は多少なりともしてるさ。俺があの病院にいられるのも親父の存在ありきだからね」
雄馬は肩をすくめて微笑んだ。
「いよいよ実習も終わるな」
「そうですね。看護師までの道のりはそんな簡単ではないって感じた実習でしたけど、とても勉強になりました」
「きっと辛い思いもいっぱいしたはずだろうけど、いつも一生懸命に前向きに向き合うチナツが俺は好きだよ」
そう言いながら、雄馬さんは手をほどき私の肩を抱いた。
「でも、チナツなら大丈夫だ。どんな困難も今まで乗り越えてきてる。それに、」
雄馬さんは、私を穏やかな目で見つめながら続けた。
「どんなことがあっても俺が守るから」
顔が熱い。こんな風に自分の気持ちに寄り添ってくれる男性は初めてだった。
それに、未だにそばにいたらドキドキしておかしくなるくらい素敵な人なんだもん。
その眼差しも声も、言葉も、切れ長の目も口も。
私は愛してもらうばかりで、雄馬さんのために何かしてあげられてるんだろうか?
ふっと、峰岸先生の顔がよぎった。
どうして雄馬さんは、私なんかを選んだんだろう?
突然波間から吹き上げた潮風がふわっと私の髪を持ち上げる。
と同時に雄馬さんの手が海の方へ私を引っ張って行った。
「ち、ちょっと!」
慌てて砂浜の方へ引き返そうとするも、雄馬さんと私の靴は既に濡れていた。
雄馬さんはいたずらな表情を浮かべて、海水を私にかけてくる。
「きゃー、やめて下さい!」
両手を顔の前にかざしながら、その海水から逃げるように走った。
私の髪や腕、そしてお腹の辺りまで雄馬のかけてくる海水で濡れていた。
「もう!」
えい!ここまで濡れたら一緒だわ。
私も笑いながら、雄馬さんに海水をかけ始めた。
雄馬さんはそんな私から素早く器用に逃げた。
そういえば、学生時代はサッカーやってて俊足だったのよね。
追いかけて私が追いつくはずもないのに、必死に笑いながら逃げる雄馬さんを追いかけた。