強引ドクターの蜜恋処方箋
すぐに降りたくなくて黙ったまま座っていた。

いい年をしてだだをこねた子供みたいだ。

そんな自分自身がますます峰岸先生との差があるみたいで嫌になる。

雄馬さんも何かを考えているような顔でフロントガラスをじっと見つめていた。

これから病院に行かなくちゃならない雄馬さんを気持ちよく送ってあげなくちゃいけないのに。

なんとか気持ちを奮い立たせて、

「じゃ、戻りますね。雄馬さんも気をつけて」とドアの取っ手に手をかけた時、雄馬さんの体がふわっと私に覆い被さった。

痛いくらいに私を強く抱きしめる。

「まだ、もう少し時間があるから」

雄馬さんは小さな声で言った。

「うん」

私も雄馬さんの頬にぴったりと自分の頬を寄せて、その温もりを感じながら答えた。

その時、雄馬さんがふいに尋ねた。

「俺の気持ち、チナツにちゃんと届いてる?」

どうしてそんなこと聞くの?

恐いくらいに届いてるのに。

「ちゃんと届いてますよ」

「それならいいんだけど。時々チナツがすごく不安な顔するときがあるから気になるんだ」

「不安な顔?」

「今日も砂浜を散歩してるとき、急に思い詰めたような顔してた。一体何を考えてたんだ?チナツの不安、俺が引き受けるから何でも話してほしい」

不安な顔してたときって・・・。

雄馬さんがどうして私なのかって、峰岸先生みたいな人の方がお似合いだって思ってた時だ。

頬に当たる彼の熱を感じながらゆっくりと言葉を選ぶ。

「大丈夫ですよ。時々恐くなるだけで・・・」

「恐くなる?」

「愛されすぎて」

私の声が少し震えた。

雄馬は私の肩を掴んで私の顔を正面から見据えた。

「じゃ、恐くならないように、もっと、もっとチナツを愛し抜くよ。チナツの不安を取り除くくらい俺の気持ちをしっかりチナツの心に刻みつける」

雄馬の目は月明かりに照らされて潤んでいるように見えた。

そして、今日二度目のキスをした。

今までと違う、とても深くて呼吸を忘れるようなようなキスだった。

私の頭の奥がしびれている。意識が遠のいていくような感覚。

もう少しこのキスが長かったら気を失ってしまいそうなくらいに。

雄馬さんの唇がすっと離れた。

私は静かに普段の呼吸を取り戻していく。

そして、再び私をしっかりと抱きしめた。

「今度の休みは何があっても朝まで一緒に過ごそう。約束するから」

そう言う雄馬さんの体はとても熱かった。

私は高鳴る胸を押さえながら、雄馬さんの耳に自分の唇を押し当てた。

もっと雄馬さんのことを知りたい。

もっともっと一緒にいたい。

車が遠ざかって行くのを見つめながら、私の胸の鼓動は激しいままだった。

こんなにも誰かを愛せる日がくるなんて。

愛するって、こんなにも胸が苦しいものだったんだ。

私は玄関に続く石段を一歩一歩踏みしめながら上った。


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