強引ドクターの蜜恋処方箋
母は、「うん、わかった」と言うと、

「水谷先生から、チナツに代わってって」と私に携帯を差し出した。

胸が押しつぶされそうなほどバクバクしている。

ふぅ。

軽く深呼吸して携帯を耳に当てた。

「チナツちゃん?」

「はい、水谷先生お疲れさまです」

「あのね。落ち着いて聞いてほしい」

その水谷先生の声に、体中が硬直していく。

「雄馬くんが交通事故に遇ったらしいんだ。今外科病棟で手当を受けてるからすぐに病院に来てほしい」

私の体中の血液がストンと下に落ちていくような感覚。

目の前が一瞬暗くなる。

母がふらついた私の手をぎゅっと握りしめた。

そこからは何を水谷先生に言われたのかははっきり覚えてない。

確か雄馬さんが駐車場に車を取りに行った時、急に子供が飛びだしてきて、それを避けようとしてスリップしたとか・・・。

母に携帯を渡すと、力なく立ち上がりコートを羽織った。

「1人で大丈夫?」

母は心配そうに私を見つめていた。

「うん、大丈夫。お母さんは寒いからここで待ってて。またはっきりしたことがわかったら連絡するから」

私は必死に平静を装って母に言った。

カフェの外に出ると街中が雪で白くなっていた。

雄馬さんからもらった手袋をはめる。

口を両手で覆って、早足で病院へ向かった。

きっと大丈夫。

だって、雄馬さんはお医者さんだもん。お医者さんに選ばれるべき存在だもの。

そんな簡単に大事に至るはずないわ。

そう言い聞かせながら、胸の鼓動はずっと激しいままだった。

病院のロビーに到着すると、待っていた水谷先生が立ち上がって私の方へ駆け寄ってきた。

「チナツちゃん、大丈夫か?僕も事故に遭った事しか聞いてなくて、その後どういう状況なのかはっきりわからないんだ。外科病棟の605号室にいるから早く行きなさい。お母さんには僕から連絡入れておくから」

「はい」

私はマフラーを外しながら、ロビーの奥にあるエレベーターに飛び乗った。

エレベーターってどうしてこんなにも遅いのかしら。

いつもよりもゆっくり動いているように感じられるエレベーターに心が逸る。

雄馬さん。

大丈夫よね。

・・・雄馬さん?

手袋を付けたままの両手をぎゅっと握りしめた。

6階でエレベーターが開くと同時に飛び出す。

日曜とあってか、看護師の人数も少なくナースセンターには2名ほどの看護師が常駐してた。

本来ならナースセンターで患者の確認してから病室に向かわないといけないんだけど、そんなことしてる余裕は私にはない。

605号室に早足で向かった。

部屋を目の前にして、深呼吸をする。

ゆっくりとその扉を開けた。
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