強引ドクターの蜜恋処方箋
ベッドに腰掛けていた雄馬さんがこちらに顔を向けた。

「チナツ?」

眼鏡を外した雄馬さんの頬には、ガーゼが貼られていた。

私は「大丈夫?」と言いながらそばに駆け寄った。

「今日はごめん。医者がこんなんじゃ格好つかないよな」

雄馬さんは苦笑しながらそう言うと続けた。

「そんな大した怪我じゃないんだ。急に目の前に飛び出してきた子供を避けようとしてハンドルきったら路面が凍ってて車がスリップしてさ。幸い脇の植木の中に突っ込んで頬と腕を軽く打撲しただけ。とりあえず、飛び出してきた子供も周りの誰にも怪我させなくてよかったよ」

そして、優しく微笑むとそっと私の頭を撫でた。

気がつくと、私は雄馬さんの首に腕を絡めて抱きしめていた。

「よかった。もう心臓が止まっちゃうかと思うくらいに心配したんだから」

「ごめん」

雄馬さんも私の背中にそっと腕を回した。

「痛くない?」

「痛かったけど、チナツの顔見たら痛みもどっかへ吹っ飛んでった。まるでキセキだな」

そして、私の頬に軽く唇を当てた。

「私は、」

雄馬さんの首に顔を埋めながら言った。

「雄馬さんと出会えたことがキセキだった」

自分でも驚くほど、素直に出て来た言葉だった。

彼と出会えてこうして一緒にいられること。

それが私にとってのキセキ。

何にも変えられないくらいの。

雄馬さんはそんな私を強く抱きしめた。

「俺、今言葉にできないくらい幸せだ」

私も雄馬さんの背中を強く抱いた。

「このまま2人で帰りたいけれど、今日はとりあえず一晩入院しろって言われたんだ。全然大丈夫なんだけどな」

そう言うと傷口を軽く押さえながら苦笑した。

「私もその方がいいと思う。今日だけは無理しないで」

「一緒に帰れなくてすまない。そういえば、チナツのお母さんと水谷先生は?」

「こちらのことは大丈夫。2人とも事情わかってくれてるから」

「本当に悪いことしたな。明日にでもまた俺から電話入れておくよ」

私は頷くと、ベッドからゆっくりと立ち上がった。

「下まで送る」

と立ち上がろうとした雄馬さんの肩に手を置いて「今日は大丈夫だから」と言うと、肩に触れた手が強い力で掴まれ彼の体に引き寄せられた。

雄馬さんの顔が近い。

その目は泣いているみたいに潤んでいた。

私は頬のガーゼの上にそっと触れると、雄馬さんの唇にそっとキスをした。

自分からキスするなんてことは初めてだった。

そんなことをしてしまった自分に恥ずかしくなって「明日は早く帰ってきてね」とうつむいたまま呟いた。

「もちろん。朝一に飛んで帰る」

雄馬さんは優しく微笑んで私の髪を撫でた。

そして、再び私を抱き寄せたその時、ガラガラと部屋の扉が開く音がした。

「あ、すみません!」

扉の方から慌てた女性の声が聞こえて、私はすぐに雄馬さんの腕から離れた。

少し開いた扉には1人の看護師さんが口に手を当てて真っ赤になって立っていた。

看護師さんは私達に一礼すると、すぐに扉を閉めた。

「見られちゃいましたね」

2人で顔を見合わせて笑った。

「俺は大いに結構だけど」

雄馬さんはそう言うとまた私を自分の胸に引き寄せた。

幸せって、こういうことを言うんだ。

雄馬さんの胸の鼓動を聞きながら、ずっとこのままでいたいと祈っていた。











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