強引ドクターの蜜恋処方箋

１１章

結局、雄馬さんが負傷した日は、私も水谷先生とゆっくり会えず仕舞いだった。

すぐにでも仕切り直ししようと雄馬さんは提案してくれたんだけど、母達はすぐにオーストラリアに戻らなければならないということで４人で会うのはまた次回ということになった。

発つ前に母が電話をくれた。

『とにかく雄馬くんが無事で何よりだったわ。その後、怪我の具合はどう？』

「雄馬さんは翌朝退院してまた張り切ってオペに向かったわ。多少の痛みは残ってるみたいだけど大丈夫よ。それよりもあの日はせっかくの機会だったのにごめんね」

『いいのいいの。私はチナツと２人でたくさんおしゃべりできたから十分。今度日本に帰った時こそ雄馬くんにちゃんとご挨拶させてもらうわ』

「次はいつ帰れるの？」

『そうねぇ。水谷先生が学会や研究発表で最低でも年に一回は帰ると思うから、また決まったら連絡するわ』

「またしばらく会えないのね」

『すぐ会えるわ。きっとあっという間よ』

「そうね」

『雄馬くんによろしくね。次会える時にはチナツからいい報告が聞けることを期待してるわ』

「なによ、それ」

そう言いながら笑った。

『じゃ、そろそろ切るわね。またお手紙書くわ』

「うん。私も。体に気をつけてね」

『何があっても自分を信じて』

「わかってるわ」

母の言葉は、優しく胸に響いた。

水谷先生と母は、その翌日オーストラリアに戻って行った。


雄馬さんの怪我もすっかりよくなり、またいつものように遅くまで働く日が続いていた。

母達がオーストラリアに発ってから１週間ほど経ったある日の夜。

夜遅く帰ってきた雄馬さんが、

「今日は少し飲まない？」

と手土産に買ってきたワインボトルの栓を開けた。

こんな遅い時間から一緒に飲もうなんて誘いはとても珍しい。

職場で何かあったのかな？なんて思いながらも、たまにはいいかとワイングラスをソファーに持って行く。

「毎晩遅いけど疲れてない？」

「全然」

雄馬さんはそう言って笑うと、ワイングラスにワインをゆっくりと注いだ。

グラスをカチンと合わせる。

普段ならワインはゆっくりと味わって飲む雄馬さんなのに、今日は飲むペースがやけに速いような気がしていた。

何度も「大丈夫？」と尋ねるけれど、「大丈夫」としか言わない。

本当に大丈夫なのか逆に心配になる。

その時だった。