強引ドクターの蜜恋処方箋
味のしない鶏肉をひたすら口に押し込んだ。

早く、早くこの場から立ち去りたい。

ユウヒは、雄馬さん達が気になるのか、時々そちらに視線を向けている。

ようやくコースの終盤、デザートとコーヒーが運ばれてきた時、ユウヒはまた「あ」と行って再び二人の方に視線を向けた。

「帰るみたいです」

「そう」

私はそんなユウヒの言葉にはあまり反応せず手元に置かれたデザートを口に入れた。

「・・・帰っちゃった」

ユウヒはなんとなく残念そうな顔で首をすくめた。

「だけど、松井先生全然笑ってなかったです。彼女だったらあんな厳しい表情するのかなぁ?まぁイケメンだからどんな表情でも絵にはなるけど」

ユウヒはコーヒーを飲みながら小さく笑った。

笑ってなかったんだ。

もともと普段はクールな雄馬さんだから笑ってないのは不思議じゃないけど。

ってことは、特別な女性ではないってこと?

まさか、まさかだよね。

雄馬さんはあんなにも私のことを愛してくれてる。

結婚しようって約束したんだもん。

私はコーヒーを飲んで大きく息を吐いた。

信じよう。

大丈夫。

雄馬さんも、私も。

自分に言い聞かせた。

帰ったら、ちゃんと聞こう。

きっと正直に私に話してくれるはずだから。

最近様子がおかしい雄馬さんに何か関係しているのかもしれないと思った。

ユウヒと私は、食事が終わると約束通り1時間ほどカラオケを楽しんで別れた。

ユウヒに「よいお年を!」って言われて、もうそんな時期なんだと少し驚いた。

新しい年は、きっといい年になるよね。

電車に揺られながら、クリスマス色に染まった街の明かりをぼんやりと眺めていた。
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