強引ドクターの蜜恋処方箋
家に帰ると既に雄馬さんは帰っていて、窓辺で夜景を見ながら立ったままビールを飲んでいた。

リビングに入ってきた私に気付くと、こちらにに体を向け「おかえり」といつものように微笑む。

「ただいま。先に帰ってたんですね」

私はバッグをソファーの上に置き、コートを脱いでハンガーにかけた。

「ああ、早めに仕事が終わったんだ。それに今日はクリスマスだしね」

あ。

そっか、クリスマスだったんだっけ。今朝までは覚えてたのに。

今年こそはクリスマスケーキを買ってこようと思ってたのに、さっきの事で頭からすっかり飛んでいた。

「ごめんなさい、ケーキ買ってくるの忘れちゃった」

「いいさ。クリスマスだからってケーキを食べなくちゃならないって法律はないだろ?」

いつものようにくだらない冗談を言う雄馬さんに少し安心して笑った。

変わらない。

ちっとも変わらない雄馬さんがそこにいたから。

「チナツは、今日は友達と食事に行ってたんだよな。楽しかった?」

雄馬さんはそう言いながらビールを片手にソファーに座った。

「はい」

私も冷蔵庫から自分のビールを一缶取り出して開けた。

そして、そのまま雄馬さんの隣に座る。

「とりあえず、乾杯」

そっとビールの缶を彼の缶に当てた。

「うん。乾杯」

なんとなくぎこちない雰囲気を察してか、雄馬さんは少し戸惑いながら微笑んだ。

ビールをくいっと飲む。

顔を上げると、そんな私をじっと見つめている雄馬さんがいた。

そして、自分のビールの缶をテーブルに置くと、そっと私の耳元の髪を掻き上げながら自分の胸に私を引き寄せた。

「チナツ、何かあった?」

雄馬さんの温かい胸の匂いをすーっと吸い込む。

大好きな匂い。

そして、ゆっくりと息を吐いた。

「今日ね、前に雄馬さんが連れていってくれたカジュアルフレンチのお店に行ったの」

私の髪を優しく撫でていた手が止まる。

雄馬さんの体がゆっくりと離れ、私は彼の顔を見上げしっかりと目を合わせた。

「一緒にいた女性は誰ですか?」

静かに尋ねる。

雄馬さんは私から視線を落とし、自分の前髪を掻き上げながら軽くため息をついた。

「K大病院院長の娘さんだ」

「K大病院院長の娘さん?」

「ああ」

「どうして2人であんな場所にいたんですか?」

私も手に持っていたビール缶をテーブルに置いた。

「チナツが心配するから言わないでおこうと思ってたんだけど、あの場にまさかチナツが
いたなんて思いもしなかったよ」

「1人で抱えないで。私にもちゃんと話して下さい。知らないままの方が心配だから」

私は、雄馬さんの手の上に自分の手を重ね強く握りしめた。

「俺が退院した後しばらくして親父が俺に縁談を持って来たんだ。多分、チナツと病室で抱き合っていたのが病院内で噂になってて、それが親父の耳に入ったんだと思う。もちろん、相手がチナツだってことまでは皆知らないみたいだけどね」















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